そして放課後。
家に帰り、荷物を持って、火宮家の前に来た。
インターホンを押そうとした瞬間、戸が開く。
「おい、今日は訓練は無しって言ったよな」
少しだけ開かれたそこから顔を覗かせたのは、火宮桜陰だった。
「こんにちは、先輩。よく気付きましたね」
「ヨモギが教えてくれたんだよ」
小声で言って、彼は私の足元に目を止めた。
「その荷物はなんだ?」
「しばらく先輩の家にお世話になります」
「はぁ!? 何言ってんだ! 今ここにはコノハナサクヤヒメが居るんだぞ!」
小声ながら、怒気が強まる。
先輩、かなり怒っていらっしゃるが、何故に。
「知ってますけど……」
「けどじゃねえ。帰れ」
「いやいや、帰る家がないんですって。先輩もご存知でしょう?」
「知らねぇよ!」
ひどい。
知らんぷりするなんて。
「とにかく、すぐここを離れて…」
「兄さん、何かあったの?」
「陽橘……! これは………」
先輩は言い訳を探すように視線を彷徨わせる。
何をする間もなく戸が開け放たれた。
火宮陽橘が出てきて目が合い、微笑まれた。
「あ、お姉さん来たんだ」
攻撃されませんようにと祈りつつ、微笑み返す。
「こんにちは、しばらくお世話になります」
私に戦う意思はありません。
だから燃やさないでください。
「いいよいいよ。咲耶の家族だもん。どうぞ入って」
「お邪魔します」
火宮陽橘に促されるまま、火宮家に入る。
稽古場を使いに何度も来た火宮家だが、堂々と真ん中を歩くのは初めてだ。
門に残された先輩は理解が追いつかないのか、ポツンと突っ立っていた。


