「思い出作りに付き合えってなァ!?」
「ほら、あの方もそう言ってるし、いいでしょ」
お姉さんがたがなおも火宮桜陰に迫る。
腕を絡ませ、豊満な胸を押し付ける。
困っている彼は見ていて気分がいい。
もっとやれ。
「あの方って……」
「ツクヨミノミコトよ」
「……ツクヨミノミコト…………」
「幽霊になって、神とか妖怪とかの存在がわかるようになったの。間違いないわ」
「いつもは踊ってるイケメンを遠くから眺めるだけだったけど、今年はこうして触れるしー」
「感謝してもしきれないっしょ」
火宮桜陰の視線を感じたが、私は彼を助ける気はさらさらない。
「あの……」
正面からサーフボードを持つ男女十数名がやって来て、遠慮がちに声をかけられた。
「任せろ」
彼らの要件は分かった。
指を鳴らすと、水龍が彼らを丸呑みにして、真っ直ぐ天に向かう。
ここら一帯をぐるりと旋回する頃には、空を飛ぶ水龍の背をサーフボードで滑っていた。
楽しそうな声が聞こえてきて満足。
「あの………月海さん……」
「何? イカネさん。何して遊ぶ? 何かに乗る? 砂のお城造る?」
「……月海さん、ですよね」
「……………そうだよ?」
私は首を傾げた。
「どうかしたの?」
「いいえ、なんでもありません。貴方が貴方なら、それでよいのです」
「んー? よくわからないけど、水族館にしよう。座ったままでいいよ」
剣に神力を込めて、ここら一帯を青に染める。
今ここは、海であって、陸である。
目の前を魚の群れが泳いでいく。
足元には珊瑚やイソギンチャクなども現れる。
「どうかな?」
子どもはキャッキャと喜んでくれているようだけど、イカネさんの表情は晴れない。
「だったらパレードにしよう」
誰かの作った芸術的な砂アートに神力を込め、動かす。
なにかしらのマスコットキャラクターは踊りだし、大型の魚に砂の城を馬車の如くひかせる。
色鮮やかな熱帯魚も周囲で踊る。
「どう? 綺麗でしょう」
「………」
「ねぇ、どうしたの? 喜んでくれないの? 私は貴方の笑顔が見たいだけなのに」
「おい」
声がした方に振り向くと、火宮桜陰に頬をはたかれた。
「気をしっかりもて。力に飲み込まれるな」
「……何の話?」
「自覚ないってのは厄介だな」
「………お姉さんがたはどうしたの?」
「俺にはお前がいるからな。他の奴のとこに行ってもらった。今頃お前の作ったアトラクションで仲良く遊んでるだろうよ」
「彼女たちの成仏の手伝いをしてくれるんじゃないの?」
「お前のおもりが最優先だ馬鹿野郎」
「ばかやろう!」
今度は脳天をはたかれた。
あ、助けなかったこと根に持ってますね。
はたかれた痛みで、少しだけ目が覚めた。
思い出すのは、自分らしくない行動の数々。
「ごめんイカネさん。私、どうかしてたみたい」
遠くにいるお魚さんたちを引っ張ってきて、差別なく放り込んでいる。
今は私の命令に従ってくれる彼らだが、一歩間違えれば弱肉強食で血の海が広がってしまう。


