火宮桜陰はまず、砂浜で軽快なステップを踏む。
彼の歌声は、包み込むような優しさで。
鳴らした鈴は、どこまでも響き渡り。
振るった刀は、月の光受けてなお輝く。
羽織を靡かせ舞う姿は、見惚れるほど美しいものだった。
海から、それを見ようとするように、影が湧き出る。
そのうちの何体か、細身の影が火宮桜陰に襲いかかる。
「ご主人様には、手を出させない」
ヨモギ君が青い火の玉をぶつける。
それを受けた影は、一瞬苦しそうにしたものの、すぐ火宮桜陰に襲いかかる。
「ご主人様!」
火宮桜陰は刀で影を切り裂いた。
「ごめん、ご主人様」
泣きそうに震えるヨモギ君に、火宮桜陰は大丈夫だと言うようにウインクした。
キザ野郎め。
イカネさんは氷の塊をぶつけて影を消している。
よしっ、私も。
海から湧いて出てくる影に剣を向ける。
「いでよ水流!」
しかしなにも起こらない。
私の狙っていた影は火宮桜陰の剣舞に斬られて消えた。
「月海さん………」
「おまえ、オレよりつかえないやつだな」
気遣うように声をかけてくれたイカネさんの後ろで、ヨモギ君にばかにされる。
火宮桜陰の歌声にも、笑いが混じっていた。
練習で一度も成功したことのない技だった。
ぶっつけ本番でなんとかなったりするかなーと思ったんだけど。
「うぅぅっ………」
恥ずかしくて前髪で顔を隠した。
瞬間、声が聞こえた。
『イケメン!』
『イケメンが来たわ!』
『こっちに来て、一緒に遊びましょう』
『あんたたちはどきなさい! アタシが行くわ!』
『抜け駆け反対!』
『イケメンはみんなのものよ!』
顔を上げると、影は火宮桜陰だけでなく、ヨモギ君やイカネさんにもにじり寄る。
「多いですね……」
『あの美女、オレの好み』
『カノジョー、オレと一緒に遊ぼうぜ』
『お前だけズリィぞ』
『ブサイクどもは引っ込んでろ! オレが誘うんだ』
「ご主人様はオレがまもるんだ!」
『カワイイー』
『ケモ耳美少年なでなでしたい!』
『ボクー、お姉さんと一緒に遊びましょ』
『何にもしないよー』
『ホラ、お姉さんたち、怖くないよー』
『こっちおいでー』
「………………」
私に寄ってくる影は一体もいない。
当たり前だ。
彼ら彼女らは、ナンパをしているのだから。
「ふっ………」
不細工に言いよるものはいない。
よく見ると、影は人の形をしていた。
きっと、海で亡くなった人たちなのだろう。
ナンパしているだけなのに消されていく彼らに同情する。
「月海さん?」
剣を降ろし、笑っている私を不審そうに見てくる。
はたから見ると、そうなんだろうね。
私はイカネさんの腕に、自分の腕を絡める。
「月海さん! こんな時に何を……」
「イカネさんは私のです。誰にもあげません!」
「月海さん!?」
同情はするが、納得はしない。
イカネさんは、私のお友達なのだ。
『仕方ないから、アンタも一緒でいいよ』
『仲間外れにされて悲しかったんでちゅねー』
『おい、こんなブス誘うとか本気か?』
むかついて、私をブス扱いした奴に向けて剣を振り上げた。
「地獄へ落ちろ」


