放課後になって、いつもなら火宮家の稽古場を借りている時間なのだが、私はまだ教室に居る。

もちろん自主的に居残りをしているわけではない。


目の前には数人のクラスメイトの女子。

皆、クラスでカースト上位の人たちだ。



「あの……ヒィッ………」



声をかけても睨まれるばかり。

退路を絶たれ、居心地が悪くて、小心者の私は猫背で机とにらめっこする他ない。

授業が終わった瞬間、席に座る私を囲み、無言で居る事数分。

教室から私たち以外が消えてから、彼女達のひとりが口を開く。



「アンタが毎日、火宮先輩と一緒に帰ってるって、知ってるんだから」



「………えっと」



「とぼけないで、アタシたち見てたもん」



「学校から少し離れたところで待ち合わせしてるの、知ってるんだから」



ここ最近なんのアクションもなくて忘れかけていたけれど、あいつが原因か!


確かに、学校から火宮家の道中で合流し、稽古場に行っている。

それを見られていたのだ。

気をつけてたつもりだったのに。



「それに加えて、わざと転んで教育実習の先生の気もひいちゃってさー」



「イケメンに色目使って、恥ずかしくないの?」



「ブスのくせに」



「キャハハッ、言い過ぎー。自覚ない子にカワイソー」



「火宮先輩も、火置先生も、アンタなんか相手にしてないんだから」



「そーそ。むしろまとわりつかれて迷惑ってゆーか」



「アタシたち、親切で教えてあげてるんだよ。アンタのためなの」



「感謝してほしいよねー。ほら、お礼は?」



囲まれて凄まれても、不満しかない。

どちらも私から絡んだわけじゃねぇですよ。

だが、火宮先輩とどこに行ったかまで言及されないのは、そこまで見られていないと判断してよいものか。


…………はぁ、もういや、こんな巻き込まれ人生……。



「ちょっと、聞いてんの?」



私はもともと日陰者ですよー。

私がもっと、立ち回りがうまければ。

妹のような美少女なら、こんなことにはならなかったのでしょうね。

ほんっと、早く終わらないかなー。



遠い目をしていると、廊下側から声がした。



「君たち、まだ教室にいたの?」



「火置先生!」



教室をのぞいて声をかけてきたのは、今日の体育の授業で男子の担当をしていた青年だった。

彼女たち曰く、火宮先輩と並んで、私が色目を使った相手らしい。

当時は色目を使ったきおくはないが、今は意識して色目を使う。


頼む、この女子たちをなんとかしてください。


不細工の色目なんて気持ち悪いだけだって?



………言うでないよ、悲しくなる。



女子たちはきゃぴきゃぴっとした、かわいこぶりっこで火置先生に駆け寄る。



「今、あの子を遊びに誘ってたところでー」



「でも断られたんで、火置先生これから一緒にどうですかぁ?」



「残念。まだ仕事が終わらないんだ」



「えぇー。仕事終わるまで待ちますよぉ」



「遅くなりそうだから、先に帰ってくれるかな」



「いつまでも待ちますっ!」



「あははっ、困ったな」



甘えた声で誘う女子達に、火置先生の対応はどこまでも爽やか好青年だった。


女子達が火置先生を囲んだので、フリーになった私はさっさと帰る用意をしてもう一つの扉から教室を出る。



「きみ!」



火置先生に声をかけられて、足が止まる。


振り向けば、女子に囲まれた彼は私を見ていた。


囲んでいる女子は私を睨んでいた。



「まっすぐ家に帰るんだよ」



「………」



「寄り道、しないようにね」



「………はい」



私は一礼して、小走りでこの場を去る。


なんだか、怖かったのだ。


直感が、あの人と関わるなと告げていた。



背中では、女子達のキャッキャとした声が聞こえたが、不自然なところで途絶えた。