体育の授業前、ぱぱっと体操服に着替える。


人目に触れるところの怪我は治してもらえたが、服の下は火宮桜陰に嬲られたあざだらけ。

一夜を過ぎて、気持ち悪い色になっていた。


それが毎日。

古いものが消える前に、また新しいあざが上書きされていく。

筋肉痛もあり、ところどころ動きがおかしい。

それでも、連日嬲られたおかげか、初日より幾分かマシである。


そんな体に鞭打って、授業をこなす。

バレーボールのアンダーハンドパスをひたすらやり続けるのだ。

体育苦手な私のボールはよく逃げる。

その度に追いかけて、捕まえたと思えば、また逃げられてを繰り返す。

何度かの捕獲に成功した瞬間。



「いてっ!」



下手くそな人のボールが背中に当たる。



「ごめんねー」



「……いいえ」



ボールの回収に来た持ち主が流れるように去っていく。

彼女の背を見送ってから、私はアンダーハンドパスを再開。

赤くヒリヒリする前腕で跳ね返そうとすると、ゴスゴスと横から球を浴びた。



「くすくす、ごめんねー」



「ぷっ、アタシたちのボールが飛んでいっちゃった」



「………いいえー」



わざとでしょう。

そんな都合よく集中攻撃がくるものか。


落としたボールを拾う。

ほら、彼女たちの後ろの方、ボールが高く上がり、その着地地点にいる人が、飛び上がって、アタック。



「つっ……!」



拾ったボールを盾にしたが、勢いは殺しきれず、後ろに倒れた。

お尻やら背中やらぶつけたところが痛い。



「おいそこー、はしゃぎすぎるなよー」



「はあーい」



「ごめんなさーい」



体育教師の半笑いの注意に効力などあったものじゃない。

ボールをぶつけてこなかった生徒も笑いだす。

天井から下がるネットの向こう側で授業を受ける男子も、私を見て笑っていた。


私が彼女たちに、いったい何をしたというのでしょう。



「大丈夫?」



お尻をさすっていると、男子側から優しい声がかかる。

見上げると、20代前半くらいのイケメンがいた。



「保健室に連れて行こうか」



「……いえ、結構です」



「そう? 無理しないでね」



「火置先生! 試合の続きしよう!」



「今行くよ。……じゃ、頑張ってね」



男子生徒に呼ばれて、火置先生と呼ばれた青年は彼らの試合に混ざる。

こっちはひたすら基礎練だというのに、試合とは。

キャッキャと楽しそうだ。


こっちも早く試合を………いや、試合はいいや。

ぼっちが団体戦なんて、しかも下手くそとかないわ。

百害あって一利なし。

試合にならない。

成績に響く。

いい感じに観客で隅っこで目立たずに、それでいて教師には認識してもらえるような立ち位置に居られればいいのに。


遠い目をしていたら、後頭部に二発、ボールを食らった。



「ごめんねぇー」



「男子ばっかり見てるから悪いのよ」



………コントロール良過ぎでしょ。