「決まりだね」
火宮陽橘が投げた四枚のお札が、大広間の中央に透明な箱を作る。
「簡易的な戦場を作った。ここから外に、攻撃が漏れることはない」
これはご丁寧に。
「コノハナサクヤヒメの実力を見せつけようってんだ。相当自信があるんだろうよ。………やれるか? 俺のイワナガヒメ?」
「茶化さないでくださいよ。私は生まれ変わりじゃないんですから」
私は深呼吸をひとつして、火宮陽橘の用意した結界に入る。
やれるかやれないかじゃない。
やらなきゃいけない時がある。
それが今で、相手がコノハナサクヤヒメの生まれ変わりだという妹だっただけの話。
先輩が相当強いと言っていた。
勝ち目は薄いのかもしれない。
「でも、タダで負けてやる気はない」
たとえ焚き火しか出せなくても、火傷のひとつ負わせてやろう。
半分より奥へ行き、振り返る。
結界外の景色もよく見えた。
「咲耶。君の力を見せておいで」
「わかってるよ。ハルくんに相応しいって証明してくるね」
二人は抱き合ってから、咲耶は跳ねるように結界に入ってきた。
随分と楽しそうじゃないか。
強者が弱者をなぶりに来たのだから、当然か。
「両者始め!」
火宮陽橘の合図で、私と妹の戦いが始まる。
まず動いたのは妹だ。
彼女の足下から太い蔦が生え、そこから数本が私に襲いかかる。
私はそれを大袈裟に避けながら、妹の足元に火柱の術もとい焚き火を展開する。
実力差があることはわかってる。
なら、先制攻撃するしかない。
遊びのない、全力の一撃。
しかしそれは太い蔦に阻まれ、妹に届くことはなかった。
「これはただの植物じゃなくて、このアタシの神力のこもった植物なの。こんなちっぽけな火で燃やせるわけないじゃない」
勝ち誇った妹の笑みが見えた瞬間、私の腹から蔦の先端が突き抜けた。
避けたと思った蔦は方向転換し、背中から貫いたのだ。
あーあ。
タダで負けてやる気はなかったんだけど、結果はやけどひとつ負わせることも出来なくて、一瞬で終わり。
実に私らしい最期ではないか。
口から血を流しながら自重気味に笑んだところで、慟哭する火宮桜陰が見えた。
『月海さん!』
イカネさんの声が遠くに聞こえる。
「……ごめん………」
それだけ言うのがやっとだった。


