鈴を転がしたような透き通る声。
金糸の長髪は複雑に結われ、翡翠の瞳は知的であり優しげだ。
淡い色の布をふんだんに使った柔らかそうな衣装に、ひれを巻きつけている。
「ご主人様?」
あまりの美しさにぼんやりしていた。
美女は私の言葉を待っている。
もしも彼女が、召喚された神様だというのなら。
「……わ、わたしと………」
「ご主人様と?」
「と、ととっと………友達に、なってくれませんか?」
「友達……」
い、言えた! かみかみだったけど、何とか言えました!
私が柄にもなく流行りのおまじないに手を出した理由。
それは、友達が欲しかったから。
高校に入学してからはや2か月。
人見知りな私はぼっちを貫いていた。
だが、それも今日でおさらば。
目の前には命令を聞いてくれる神様がいるのだ。
…………言ってて悲しくなってきた。
命令で友達になるって、それもう友達じゃないよね。
「あ、あの………」
訂正しようと口を開くも、うまく言葉が出てこない。
でもやっぱりぼっちはな………。
「ともだち………」
彼女は考えるように何度か友達と呟いてから、笑顔で手を差し出してきた。
「かしこまりました、ただいまよりわたくしはご主人様の友達です」
「…っ、やった! 私のことは月海って呼んでくれますか?」
「はい、月海様」
「様はやめて、なんか恥ずかしいから」
「……月海さん……?」
「うん。貴女の名前は?」
「わたくし、イカネと申します」
「よろしく、イカネさん」
「はい、月海さん」
私はイカネさんの白魚の手を両手で握り、すぐに離した。
イカネさんに悲しそうな顔をされる。
違うんです、手汗が……手汗をなすりつけているようで申し訳なくって。
ブレザーで両手をガシガシ拭いて、寂しげに浮いているイカネさんの手を再び握る。
すると途端に嬉しそうに微笑まれた。
「眩しいっ………」
「月海さん?」
「いいえ、何でも……」
こんなに嬉しそうにされると、命令で友達になってもらっているという事を忘れてしまいそうになる。
いや、これから本当の友達と思ってもらえるように努力するまで。
そのためにはまず。
「イカネさん、これから時間ある?」
「時間、ですか?」
「ファミレスでも行きませんか?」
友達といえば、放課後、どこかに寄って帰るでしょう。
初めて誘ったから不恰好だろうけど、イカネさんなら笑わないと信じてる。
「月海さんが行くなら、どこにでも参りましょう」
「じゃあ行こっ!」
私は急いでスクールバッグに荷物を詰めて、肩にかける。
イカネさんの手を引いて、教室を飛び出した。


