用意されていた着物をイカネさんに着付けてもらい、火宮桜陰に案内されるまま母屋に行く。
あーあ、今頃は焼きマシュマロ作ってるはずだったのに。
稽古場を眺めて未練がむくむくと顔を出す。
人の集まる大広間。
その隅の方に、目立たないように火宮桜陰と並んで座った。
彼のキリッとした顔は見慣れない。
お年寄りから若者まで、男女関係なく集まった人達は、皆、火宮桜陰を見て嘲笑する。
「まだ居るよあの役立たず」
「あれで本家の血筋とは、火宮家の将来が心配ですな」
「他の五家の者の笑い物だ」
本人の目の前で悪意を持って話される。
気分のいいことじゃないな。
でも、先輩は耐えて、キリッとした顔を崩さない。
私も耐えろ、馬鹿にされるのはいつものとことじゃないか。
「それに対して、陽橘様の能力は素晴らしい」
「あの歳で高位の式神を従えているのだから」
「立派ねえ」
「その上、術師としても優秀なんでしょう?」
「火炎の術においては当代に勝るとも劣らないそうだ」
「それでこそ次期当主に相応しい」
「陽橘様のお陰で火宮家は安泰ですな」
「皆さま、そろそろ次期当主様がいらっしゃいます」
誰かの一言で、全員が口を閉じる。
先輩の悪口で場を温めておいてから、優秀な弟の登場。
よく出来た筋書きですね。
それより、さっきから名前の上がる陽橘様に、嫌な既視感を覚えるのですが……。
しばらくして上座に現れた男女を見て、周囲は感嘆の声をあげ、私は頭を抱えた。
やっぱり、お前らかよ。
「美しい………」
口々に言う彼らに、内心で呼びかける。
あれが美しいのは、外見だけですよ。
中身はとても怖いです。
人前では決して見せない、分厚い猫をお飼いになっていらっしゃいます。
外見を散々馬鹿にされる私が言うのですから、間違いありません。
「皆様、今宵は私どものためにお集まりいただき感謝します。隣にいるのは、私、火宮陽橘の花嫁。天原咲耶です」
彼氏君は花瓶から花を一輪抜き取り咲耶に渡しながら、私達に向けて言う。
「そして、彼女は美しいだけではありません。………咲耶」
「うん」
咲耶はそれを受け取り、胸の前に持つ。
すると花は一瞬で茎を伸ばし、葉を生やし、沢山の花をつけた。
「このように、植物を操る力を持ちます」
「…………」
「おお!」
「素晴らしい!」
周囲がざわつく。
ずいぶん派手な挨拶じゃあないか。
「あいつ、どこであんな奴見つけてきたんだよ」
隣の火宮桜陰がつぶやく。
私も知らなかったよ。
妹が、あんな能力を持っていたなんて。
「彼女は、コノハナサクヤヒメの生まれ変わりだ」
彼氏君、火宮陽橘の宣言に、周囲が沸いた。
「さすがは次期当主。こんな素晴らしいお方を迎え入れるとは」
「陽橘様万歳!」
「咲耶様万歳!」
拍手喝采のなか、彼氏君と咲耶は満足げだ。