火宮桜陰の家にお邪魔すると、離れに通された。
机に置いてある教科書などから、先輩の部屋だとわかる。
いつも稽古場に直行だから、新鮮ではあるのだが。
正座する私の前で、ベッドであぐらをかく彼は不機嫌だ。
「わりぃ。稽古場使えなくなった」
膝の上に片肘をついて頬杖をついて、どこの殿様かと。
「お前がこそこそ女連れ込んでることくらい知ってるんだ、だそうだよ」
間違ってないけど、心外ですね。
この言い方では、まるで私と火宮先輩がいかがわしい事をしているようではありませんか。
「俺の使用時間内でやってるんだ、口出ししてくんなって話」
火宮先輩は怒りを抑えるためか、うさんく爽やかモードが混じっている。
「お陰で今日の集まりに行かなきゃならない」
「そうですか」
せっかくのお得用ビッグマシュマロが無駄になった。
楽しみにしてたのに………。
「で、今日の集まりにお前も出ろとのことだ」
「流れ弾きた……」
他人事と思って聞いてたのに、なんてこったい。
「なぜ、親戚の集まりに、他人の私が……」
「なんでも、弟が彼女を連れてくるらしい」
「彼女さんのお披露目に親戚総動員とか……」
「仕方ない。次期当主の花嫁になるかもしれないんだ。盛大なおもてなしをしたいんだろうよ」
「弟さんが次期当主なんですね?」
「ああ。弟は俺と違って術師適性が高くてな。……術師として優秀でありながら、高位の式神使いでもある」
年功序列でなく実力主義らしい。
理屈はわかる。
でも、火宮桜陰が戦闘において術師に劣るとは思わない。
「で、他人の私が参加する羽目になるとは、これ如何に?」
「弟と、弟の彼女の引き立て役って言ってたな。有能な次期当主と美少女な彼女。片や、無能な兄と不細工な女。最高な接待じゃねぇか」
「顔要員!」
「お前にしかできない仕事だな」
ニヤニヤしやがる先輩。
人の不幸は蜜の味ですよね。
自宅だけでなく、ここでも美少女の引き立て役をさせられるとは思いませんでしたよ。
「そういうわけだ。覚悟決めて、笑われに行こうぜ」
「私、用事を思い出しました、いやーざんねんだなーせんぱいのおともができないなんてー」
腰を浮かしかけると背中からの衝撃で顔面を畳に打ちつけた。
「逃がさねぇよ。俺様の盾になってもらおうじゃねぇか」
理不尽俺様大魔王様降臨。
彼の隣で、私の退室を阻んだ中型犬が誇らしそうに尻尾を振っていた。