案内された先は、立派な門構えの日本家屋だった。
「道場ですか?」
「俺の家」
「はぁ!?」
表札を見ると【火宮】とある。
ほんとに火宮先輩の家のようだ。
「こんな大きな家に住んでるんですねぇ」
「古いだけだ」
先輩に続いて門をくぐり、すぐ横の稽古場に入る。
板張りの、剣道場のような内装だ。
「ここには結界が張ってあるから、多少暴れても平気だ」
「そうなんですね」
なんだか嫌な予感がするのですが。
「んじゃ、さっそく……」
火宮桜陰はいつの間にか来ていた中型犬の咥えてきた刀を構える。
「かかってこいよ」
「実戦稽古!」
「なんだ? 怖気付いたのか?」
「いやいやいやいや無理無理無理無理!」
「なんだよ、戦いを教えて欲しいんじゃなかったのか?」
「欲しかったけど、そうじゃない! 思ってたのと違う!」
言いながら切りかかってくる大魔王に、私はスクールバッグを盾にしながら叫ぶ。
「イカネさん!」
私と大魔王の間に氷の盾ができ、彼はぶつかる一歩手前で飛び退く。
「やれば出来んじゃねぇか」
「………これはイカネさんの力で、私の力じゃない」
「はぁ? 何言ってんだよ。式神使いは式神を使役してこそだろ」
本気で訳がわからないという顔をされた。
「式神の強さが術師の強さ。だから式神使いは、より強い式神を求める。常識だろ」
「先輩の常識はそうなのかもしれません。でも、私の求めてるのは、イカネさん……式神に頼らない戦いです」
「それは………、お前は自分の式神を、信用してないって事か?」
「ちがっ……」
「違わないだろ。式神にだって心がある。お前の式神はお前の力になりたがってるのに、それを受け入れる力をお前は持ってるのに、なぜ使ってやらない。………俺だって………」
火宮桜陰の言葉にハッとする。
イカネさんを召喚したおまじないが流行った理由。
先輩が神様を呼び出す儀式をしていたから、周りの女子が真似をした。
成功しなかったと、本人が言っていた。
ここで疑問がひとつ。
「そのわんこは式神じゃないんですか?」
「こいつはただの犬だ。何の力ももってない。昔拾ったんだよ」
中型犬は、自身を撫でる先輩の手に嬉しそうに擦り寄る。
彼の隣に式神はいない。
召喚したくても、出来なかったんだ。
欲しくても手に入らなかったものをもつ他人が、それを蔑ろにしていたら誰だって怒る。
「……ごめん、イカネさん。そんなつもりじゃなかったんだ」
「………ええ、わかっていますよ」
綺麗な微笑みに、影が混じっている。


