朝起きて、準備して、学校へ行く。

いつもと変わらない日常だ。


授業を受けて、移動教室もあり、体育もあったけど、体育館に穴は空いてなかった。

昨日のことは白昼夢だったのかもしれない。

そんなことを思って昼休み。

弁当を食べ終わり、意味なくスマホを触っていると、廊下から悲鳴が聞こえた。



「え、イケメン……」



「火宮先輩だ」



「うそっ、なんでここに?」



「スタイル良……!」



「こっち見た!」



「火宮先輩! どうして1年の教室に?」



「誰か探してるんですか?」



「ああ、ちょっとね」



女子達の質問の声に、火宮先輩だろう声は軽く流した。


だというのに、黄色い悲鳴があがる。

塩対応なアイドルのファンサかな。

握手会とか行ったことないけど。

そんなに騒がれるイケメンなら、どんなものか拝んでみたい気持ちもなくはないけど、面倒だしいいや。

でも、隙間から見えたりしないかな、と人だかりを見ていると、女子達の頭の上から長身の彼の顔があらわれた。

確かにイケメンだと思った瞬間には、目が合った錯覚に陥る。


それだけなら気の所為で済むが。



「見つけた」



と、彼の唇が動いた気がした。


私は咄嗟に顔を伏せ、寝たふりを決め込む。

あの綺麗な顔は、忘れるはずがない。


忘れていたかもだけど、一瞬で思い出した。


昨日、大型の蛾相手に、中型犬を相棒に刀で戦ってた男子生徒だ。

こっちに来るなと、祈ったところであっちはお構いなし。



「こんにちは」



すぐ目の前で声がした。


実は勘違いだったの可能性に賭けて顔を上げると、整った顔が否を言わせない笑顔で見てくる。

背中を冷や汗が伝う。



「君だよね、昨日の体育館に来たの」



私は賭けに負けた。


何のことでしょう、と誤魔化せれば良かったのだけど、周囲の注目を浴びている今、小心者の私は声が出ない。


それを肯定と受け取られたらしい。


間違っちゃいないが、認めたくないな。



「ここは人目が多い。場所を変えようか」



立ち上がり、廊下側へ数歩進んだところで彼は振り返る。

座ったまま動かない私に向けて一言。



「もしかして、エスコートが必要かな? お手をどうぞ」



左手を差し出す仕草ですらイケメンな振る舞いに、女子だけでなく男子からも歓声があがる。



「……結構です」



だけど、応じるわけにはいかないよ。

周りの目が怖すぎる。