15cmのピンヒールで、アスファルトに作られた水溜まりを容赦なく踏み付ける。

風営法という硬いガードの塊に包まれて、この街は静かに息を潜めて夜を越える。
ギラギラと眩いネオンが次々とシャットダウンされ、ばら撒かれたいくつもの欲望を清めるかのように、今夜は激しい雨が降っている。

濡れていくフォックスファーのコートはこの上なく無様で仕方がない。

ああ。身体に、脳裏に、臓器に、酷い火傷を負ったみたいだ。

深夜0:30の暗闇は、源氏名「レイラ」を脱いだ本名のあたしに凄まじい攻撃を仕掛けてくる。あたしは何故か心がヒリヒリと痛むのをただただ堪えていた。

源氏名で生きるたった数時間、指名ランキングを塗り潰す極彩色の価値なんて、今のあたしには通用しないことなど既にわかり切っているリアルなのに。
ピンヒールを鳴らしながら歩む度に、ひらりひらりとコートの裾から見える太腿の菊の花の刺青が雨の雫を浴びて誇らしく咲き乱れている。
たっぷりとグロスを乗せぽってりとしたピンク色の口唇に、生暖かく苦い涙がポロポロと垂れ流れていくのを感じていた。

あたしは、今、どうして泣いているのだろう?

真っ白な息を吐く。この瞬間すぐに冷たい冬の空気に混ざり合って消えてしまうのはわかっていたけれど。眩くも嫌味のように輝いていたネオン街が、そっと沈黙に溶けていく。

ピンヒールの鋭い音を鳴らし、振り返ることも立ち止まることもなく、あたしは歩いていく。

理由なんて必要ない。誰でもいい。お金という存在価値が欲しいだけ。ただ、それだけ。

このぽつんと開いた膣と同じように開いている淋しさを買ってくれる存在がある限り、あたしは暗闇と共に息をして生きていく。