春色の屍 【完】

興奮気味に作者を訊ねた私に、美術部の顧問である(みなみ)先生はのんびりと「ああ、篁だよ。気に入ったの?」と訊ねた。
一年生の私でも知っているくらい、二学年上の篁先輩はひときわ目を引く存在だった。

「篁先輩って、絵とか描くんですね……」

「うん。描くよ」

とつぜんの背後からの声に振り返ると、そこには篁先輩がいた。

「描くんですよって、今やもう幽霊部員に近いのに。
篁が目当てで入ってきた子たち、みんな辞めちゃったよ」

南先生がそう言うと、先輩は口を開けて笑った。
美術室には南先生と数人の生徒しかいなかった。


まるで歯磨き粉のCMのように、真っ白な先輩の歯。
それとは対照的に深紅に染められた髪。

いくら自由な校風が人気なうちの高校でも、ここまで突き抜けて自由な人はいなかった。


燃えてる、みたい。


「興味あるの? 美術部に」

鋭い瞳が私を見つめ、笑みを浮かべた唇が私に訊ねる。
燃えているのは髪だけではなかった。

なにかを持て余し、それに抗うかのように、瞳も声も、静かに燃えている。

底冷えする美術室の中でゆらめく、寂然(じゃくねん)の熱。