春色の屍 【完】

ハンバーグ専門店のメニューの端にちょこんと載ったカレーを選び、辛さのレベル、トッピング、サイドメニュー、ドリンクまで、すべて同じだった。
まるで私がアオヤギさんをナンパするきっかけをつくっているかのようで、脇の下に嫌な汗をかく。

変な意味はないです。真似じゃないです。
ぐうぜんです! 違います!

そう言いたくても、もちろん言えるわけがない。

むずむずする唇を()み、歯がゆさを噛み殺す。
すると、動揺の走った指先がスマートフォンに触れ、ガシャッと痛々しい音が響いた。

タイルの上をくるくる滑ったスマートフォンは、アオヤギさんのスニーカーの爪先で止まった。

どうしてこういうことって連鎖するのだろう。

「すごい、ぐうぜんですね」

アオヤギさんは私のスマートフォンを拾い、ほがらかに言った。
軽く触れた指先はふわふわとやわらかく、やっぱりパンみたい、と思った。

かさついた自分の手がとたんに恥ずかしくなり、ささくれた爪を隠すように手を丸めた。