春色の屍 【完】

ひかりの花束のようなその画集は、カンバスからはみ出そうなくらい大胆なタッチと繊細な色使いで、枯渇している身体に栄養剤を注がれるようだった。
ぐんぐんと、腹の底からなにかがわき上がる。

気持ちいいだろうな。
こんなふうに、描けたら。

ぼんやり考えていると、視線を感じた。
隣の人がなぜか私と画集を交互に見ている。

どうして?
不思議に思っていると、彼の膝の上には私と同じ画集が広げられていた。

有名な画家の画集ならまだわかる。
だけどこの画家は日本ではあまり知られていなくて、画集は一万円を超えるものだった。

ぐうぜんにしたら、なかなかの確率じゃないだろうか。

「アオヤギさま、メニューはお決まりですか?」

店員が隣の人に訊いた。
どうやら並んでいる客たちのオーダーをとっているようだった。

アオヤギさんがオーダーを告げると、店員は私にも同じように訊いた。

「カレーをお願いします。
辛さは辛口で、トッピングはチーズと……この、旬の野菜で。
サイドメニューはサラダで……ドレッシングはイタリアンでお願いします。
ドリンクは、特製ジンジャーエールで」

もごもごと答える私を、店員が丸くした目で見る。
無理もなかった。

なぜなら私のオーダーは、アオヤギさんとまったく同じだった。