春色の屍 【完】

背表紙が3cmはゆうに超える、凶器にもなりそうな画集。
どうしてこれをバッグに入れたのだろう。
ときどき自分がよくわからなくなる。
働きすぎ、だろうか。瞼が重たい。

ふああ、と縦に口を開けると、隣の人もあくびした。

あくびが伝染するって、本当だったんだ。

つい、じっと見てしまうと、隣の人と目が合った。
最高に気まずい。

謝ろうか、目をそらそうか。
考えていると、隣の人はにっこり微笑んだ。
人のよさそうな、ふくふくした、やわらかな笑顔。

焼きたてのパンみたい。

フランスパンじゃなくて、まんまるい、子どもの好きそうな、ほんのり甘いパン。

私も笑い返してはみたものの、寝不足でぼろぼろの肌は硬く、おまけに目の下にはコンシーラーで隠せないほどの(くま)が広がっているので、きっといまいちな笑みだった。

入社三年目。デザイン業界がハードだということはわかっていたけれど、それでもたまに、心がぽきりと折れる。

ため息をつき、画集をめくった。