春色の屍 【完】

「ごめんなさい」

「はい?」

とつぜん呼ばれたかと思えば、とつぜん謝られた。
なんのことを謝られているのか見当がつかない。

「鯨井さんのこと、誤解してました。
前に、こうちゃん目当てで入部してきた人たちがいて、けっきょく全員辞めたんです。
でも、鯨井さんは違いますね。こうちゃん目当てであそこまで絵はうまくならないし、美術室の画材や備品だって、いつも丁寧に使ってくれて」

篁先輩をこうちゃんと呼ぶ桐野さんの話し方は、やはり抑揚はなかった。
だけど、彼女のその瞳の奥は微笑んでいた。

胸が痛む。
私だって最初は先輩目当てだった。

だけど、いまは。

「たぶん、私だけじゃなくて部員はみんなそういう先入観があって、鯨井さんと距離をとっていたというか、様子をうかがっていたというか。
悪い人たちじゃないんです。チームワークはすごくいまいちですけど」

最後の一言に思わず噴き出した。
確かに彼らからは、みんなでワイワイするような感じはしない。
それぞれが気持ちよさそうに天を仰ぐ観葉植物のような、そんな雰囲気だ。