春色の屍 【完】




お店は学校から歩いて10分ほどの場所にあった。

ボックス席に通され、桐野さんは先輩の隣に慣れた様子で座った。
本当に親戚なんだな、と改めて胸を撫でおろす。

「二人とも好きなもん頼んでいいよ」

先輩に言われ、桐野さんは冬季限定のチーズインハンバーグを、私はカレーを選んだ。
ここに着くまでのあいだに、先輩が「ハンバーグ専門店だけどカレーがうまい」と言っていたのだ。

「シャチ、俺に合わせることないよ。好きなもん頼みな?」

「好きなんです、カレーが」

「そっか。俺と同じだな」

好きなんです、先輩が。

そう言えたらいいのに。
いちばん大事なことは、いちばん口に出せない。


店員に注文した先輩はトイレに行く、と席を立った。

「鯨井さん」

「はいっ」

とつぜん桐野さんに呼ばれ、びくりと肩が上がった。
はじめて正面から顔を向かい合わせた彼女の瞳はすべらかで、彼女の描く世界とよく似ていた。