春色の屍 【完】

もちろん、私と他の部員たちを比べたら、子どもと大人――いや、それ以上の差がある。

それでも、まるで特大の花丸をつけるように先輩は褒めてくれた。


くすぐったい。
くすぐったくて、心地いい。


「来週は油絵やってみるか。でも、本当にすごいよ。
なあ、桐野(きりの)もそう思うだろ?」

なぜか先輩は、近くに座っていた桐野さんに相槌を求めた。
同じ一年生の桐野さんとは美術室で顔を合わせるだけで、話したことはない。

どうして桐野さんに振るのだろう。

よりによって、こんなに絵のうまい人に――と居心地悪く感じていると、桐野さんは筆を置いて席を立ち、私のデッサンを眺めた。

「すごいですね。一か月でこんなに……」

敬語なうえに、まったく抑揚がなかった。
水彩絵の具を使いこなし、淡く儚い物語のような絵を描く彼女からしたら、私のデッサンなんて見るに堪えないのだろう。

桐野さんに話を振ったのは先輩だけれど、なんだか私が桐野さんと先輩に悪いことをしてしまったような気になった。

口の中に苦い唾液が溜まっていく。