春色の屍 【完】

「いいじゃん。3だって。はいりなよ、美術部」

「でも」

「大丈夫。俺が面倒みるから。一年だよね? 名前は?」

鯨井(くじらい)(あや)です」

「クジライって、あのクジラ? 海で泳いでるクジラ?」

「そうです。海の、哺乳類の、鯨です」

なんだか必死に答えてしまった。
視界がぐるぐると回る。

「呼びづらいからシャチって呼んでいい?」

「シャチ?」

「似たようなもんだろ。だめ?」

「いえ……」

先輩がくれた、先輩だけの呼び名。
一段飛ばしで縮まる距離に眩暈(めまい)がした。


静脈のうっすら浮き出た先輩の手が入部届けを差し出し、万年美術3の私は震える手で名前を書いた。

枠の中がすかすかに余るほどちいさい字に、先輩はまた笑った。