麻衣ロード、そのイカレた軌跡/補完エピソーズ集

その2
ケイコ



「…私、中央公園でのこと、あの夜からずっと考えてたよ。それでさ、やっと頭の中と心、両方の整理がついて…。私のこと気に食わないって女が15人か16人集まってたけど、テツヤと私を引き離したいって子たち以外には結論、怒り心頭さ。今でも全く納得いかない!」

「…」

テツヤ…、ここでは口を開かなかったよ

どうやら、私の話を全部聞いてくれるつもりらしいや

「…奴ら、逆恨みかやっかみだよ、どう考えても、結局さ…。そんなもん、ふざけんなバカヤローだ、私は。でもさ、テツヤ‥。いろいろ考えたけど、お前を慕って集まった10人には、そうやって割り切れないわ。全員、そっくりそのまんまじゃないけど、私にした仕打ち、わからないでもない…」

「おけい‥」

「今回、あの夜には10人だったらしいけど、その中の何人かはテツヤ、名前も知らない子だったんだろう?」

「ああ、3人いた。顔見ればああ…、って子もいるだろうけど…」

テツヤは、中央公園の翌日、黒沼の”彼女”二人から、今回の計画に加わった”彼女軍団”のリストを見せられたらしい…


...


「うん…。でさあ、ピンクのフレームの眼鏡かけてて太った背が小さい子、その中か?やっぱり名前も思い当たらないか?」

「…その子なら、その3人以外だ。名前も知ってるよ。今は通ってないけど、塾が一緒だったんだ。まあ、言葉は交わしてても、それ以上は全くないんだよな…」

彼からすれば、この子がなんでってとこなんだろう

「そう…。その子さ…、もし、あの夜みんなが私を襲ってたら加わってたよ。間違いなく…。血走った目で声を出してた。みんなでやっちぇって…」

「おい…、それってよう…」

テツヤは勘弁してくれって顔してた


...


「テツヤと体の関係どころか、ほとんど親しい接触もなかった子がだよ…、あの夜、集団で犯罪まがいの企みに手を貸してる。これって、どうよ…」

「オレには何とも言えない…」

「そう言うことだよ。お前は、自分が意識してないところでみんなの心を虜にしてるんだ。その子だって、何も自分がテツヤを独占しようとは思っていない。でも、支えられてるんだよ、お前の存在に…。テレビに映ってるアイドルとか、ホストとか…、憧れの存在で、自分の中に引っ張り込んじゃってるんだ」

テツヤ、ため息ついてるわ

自分の知りえないところで、同年代の人間が自分をめぐって想像を超えた行動をとっていた…

私らの年からしたら、衝撃だよ、やっぱり…

「黒沼の彼女とかみたいにテツヤとイチャイチャできなくても、それは許容できてた…。だけどよう、私がテツヤに求めたことは、それ、全部根こそぎってことなんだよ。お前の全部変えちゃおうって…。私は本気で迷いもなく、テツヤを私だけのもんにするつもりだったんだ」

テツヤは何かをしゃべりたいのに、適当な言葉が出ない

そんな感じだった

「彼女にしたら憎いよ、そりゃ。私だって女だし、逆の立場ならわかる。そう言うことなんだ。私は結果としてテツヤに踏み絵をさせて、追い込んだんだよ」


...


「お前、何もそんな極端にならなくったって…」

ようやく飛び出したテツヤの声は大きかった

「いや、いい気になってたよ、私。結婚を誓った仲ならともかく、まだ高1だよ、私ら。お前にスケベ治すならとか、自分を押しつけて、お前のお前らしさ、どんどんなくしちゃう方向に追い込んでってた。お前、鏡見てみろよ。こんな短い間にやつれちゃって…」

私の目はそろそろ、うるうるしてきた…

「それ、私のせいだって。私さ、自分勝手に”タイムスケジュール”まで決めちゃってたんだぞ。きっと、そんな私の思いあがった心の中身、吐き気がするほどだった思うよ、彼女らは。それで、私が憎いって一点で、手を携えたんだ。そして悪魔に魂を売ったんだよ!」

「ちょっと、落ち着けって、おけい‥」

「黒沼のあの二人だって、お前のこと刺せる訳ないよ。気が付いたら”連中”に操られてたんだ。引き返せなかったんだ。かわいそうだよ、そんなの!」

ここで私は一気に嗚咽した

「お前、なんでそんなになれるんだよ…。オレはそういうのがなんだかさ…。おい、大丈夫か?」

おそらくテツヤは私を抱きしめてやりたい…

でも、今はそんなぎりぎりの気持ちを必死に抑えてる

コイツの、その気持ちが伝わる…

とは言え、意味不明だって、今の言葉…

だけど、優しいや

...


ふう…、ここで切り出すぞ

「テツヤ、今でもお前が大好きだけど、今のスタンスは辞退したいんだ。私が描くお前の彼女はやめたい」

「おい!おけい、いきなり何だよ、そんなの…。全く、何なんだか…」

お互い横に並んで座ってたはずの私たち二人は、気が付くと正面を向き合っていた