麻衣ロード、そのイカレた軌跡/補完エピソーズ集

とびっきりの純情のもと…
その1
ケイコ



ワン、ワン、ワン…

ジョンが盛んに吠えてる

どうやら時間だし、テツヤ達が来たようだ

私は階段を降りて行った


...



「ああ、ケイコ、お見えになったわ。…どうぞ、皆さん中へ入ってください」

お母さんが玄関に出て3人を迎えてる

そのお母さんの頭越しに、テツヤの顔が視界に入った

相川先輩も南部聖一先輩も、わざわざ起こしいただいてるのに…

私の視界はテツヤだけに集中してる

テツヤ‥

そんなにやつれちゃって…

お前じゃないってば、そんな顔…


...


3人はお母さんの誘導で1階の和室に通され、とりあえず並んで座ってる

4畳半の和室と続き間になってるリビングで立っている私に、お母さんは無言のまま視線を投げかけてきてるわ

”ケイコ、さあ、いつものあなたのままで口火を切りなさい…”

母の目からは決して威圧感はないが、かなりせっつくテンションの高さが伝わってきた

私はまず、正座してるテツヤの目を見つめた

そして私たちは語りあった

私たちって、目と目で語りあえる仲なんだ

こんな実感、これから先、そうはないんじゃないのか?

お互いあんな局面に身を晒してもなおだし…


...


私はもう一度、後ろの母を振り返った

母は観音様のように、よそ行きのようでそうでない包み込むような穏やかな眼差しで私をジッとだ

私の目は、またテツヤの顔に戻り、一瞬おいて深呼吸した

そのあと、私は口を開いた


...



「相川先輩、南部先輩‥。いつも私たちのことを気遣ってくれて、すいません。まずはテツヤと私の二人で話したいんですが、いいですか?」

「ケイコ、しっかり話し合ってきなさい。二人でしっかりね…」

相川先輩は、言い終わる前にハンカチを目に当ててる…

「テツヤ、私の部屋で話そう…」

「ああ…」

テツヤが立ちあがると、ちょっとふらついた

「テツヤ、シャキッとしろよ。ちゃんとな…。行ってこい…。待ってるから…」

「わかった…」

テツヤのお兄さんは厳しくも優しい口調だった


...


「じゃあ、皆さん、行ってきますので…」

なんてかしこまってるんだと思いながらも、私は出征の気構えだったよ

大げさだろうけど…

でも…、テツヤと私、いつでも真剣勝負だったし

これは自信もって言えるし…


...


「テツヤ、ここが私の部屋だよ。色気もそっ気も、乙女チックのかけらもないでしょ」

「この部屋に入った第一印象を言っもいいかな?おけい…」

「うん。言ってみて」

「この部屋の空気、なんて健康的な匂いなんだろうかって。そう思った」

「なんだよ、それ。要は女の子の部屋っぽくないってことだろ?」

「まあ、そうかな。だけど、凄くいい…」

テツヤはマジ顔でそう言った…


...



私たちはベッドを背に、横に並んで腰を下ろした

「とにかく、ケガとかさせられなくてよかった。本当に乱暴とかされてないんだよね?」

「ああ。大丈夫だよ。そっちも暴力振るわれたりはなかったんだよな?」

「うん。相手は10人以上いて怖かったけど…。結局、最初から集団で襲う気はなかったみたい。警察が近くにいるからって退散したけど、それは事前のシナリオだったと思う」

テツヤは神妙そうな子顔で頷いてる

「あのさ、あの夜電話に出なくてゴメンね。それ、まず謝んなきゃ」

「いいんだ。無事に家着いたかの確認みたいなもんだったから」

「そうだよな。テツヤは純粋に私のこと、心配してくれてだったんだよね…。わかってるんだけどさ、私…」

ここで二人は向き合って同じような苦笑いしてた

まあ、お互い力なくのそれだったけど…


...



「テツヤ、そっちの窓の向こうは隣の亜咲さんの部屋だったんだ。よく窓越しで話をしてたよ。バイクの後ろには年中乗っけてもらってたし…」

「そうか…」

「普通だったんだ…。日常のさ、それって。紅子さんとは一緒にひったくり捕まえた時から、かわいがってくれて…。中学上がる前からだよ、それも…。周りからしたら、どんなにか羨ましかっただろうね。今回の件があってつくづく、そう思った。はっきり言って、今まで改めて考えたこともなかったんだ、周りのそういう心理っていうか気持ちを…、私はさ…」

「…」

「なあ、テツヤ。この前、ランジェリーショップの日…、私はお前から周りの女達全部消し去るって、そういう決意でだったんだよ…。そんなの、健康的かよ?違うよ!」

「おけい‥、お前…」

テツヤは私のうつむいた顔を覗き込むように言った