その2
亜咲



4日後…

風のほとんどない晴天のもと、火の玉川原で私は石段の上りと下りの往復を演じた

さすがに逆髪神社では下りは危険ということで、駆けあがりだけのメニューだったんだけど、川原の傾斜角度なら問題なしなんで、私の方から申し出たんだ

そしたらディレクターさん、喜んでくれちゃって

結局、撮影は予定通り無事に終わってね…

ギャラリーは神社の時より多かったし

オンエアは半月後で、時間的には10分ちょっとだったけど、評判はよかったみたい

視聴率もまあまあだったようで、当事者としては安心したよ(苦笑)

...


それにしても実際のTV放送見たら、思わず笑っちゃってね

だって、ディレクターさんの描いたシナリオ、えらい脚色なんだもん(苦笑)

まず、逆髪神社にまつわる言い伝えを紹介のうえ、そこの急傾斜の石段をバイクで駆けあがった伝説の少女がいると…

そこで私が走ってる過去の収録シーンが入り、凄腕の女ライダーをクローズアップよ

”今日我々は、バイク駆けあがりの神業をカメラに収めるべく、埼玉県内のここ逆髪神社を訪れ‥”、って、まあこんなフリで続いたわ

”ところが、思わぬハプニングが…!”

となる…

...


ここでディレクターのコメントが入り、”実はかくかくしかじかで…”と…

それを受け、ナレーションがテロップ入りで流れる…

”神社側と撮影許可の行き違いがあり、急きょ撮影は中止に…!”

現場に集まっていた見物人たちは、伝説の駆け上がりをその目に収めることができず落胆、更に何人かから、「やっぱりこんな急傾斜、バイクで上るなんて、素人の少女にできる訳ないんだよ!」といった疑念を口にする声も…

しかし…

「この角度ならできますよ。もう少し勾配が緩けりゃ下りも…」

ここでこう、ギャラリーに返したこのセリフは私よ(苦笑)

...


さらにナレーションが続いてさ

”そこで、現場から数キロ離れた川原の石階段で、バイクによる上り下りの往復滑走をその場の見物人に宣言!4日後に決行することで…”

そして、火の玉川原が逆髪神社同様、都県境で猛る女の伝説の地である云々と、まあ、そんな煽りを挟んでから、その4日後となる訳よね…

”かくて、神社でお預けを食った見物人もあまりに見事な彼女の往復滑走を目のあたりにし‥”、ってね…

いやあ…、やらせも入ってるしちょっと抵抗はあったけど、ひねりの効いた演出よね

なにしろ私のセリフ、めちゃくちゃ恥ずかしかったし!(笑)