その1
ケイコ


その週の水曜日…

黒沼高校のグランドで”例の”合同練習があって、私は学校の授業が終わると即、黒沼に向かった

練習まではまだ時間に余裕があるのだが、その前に”あの人”と会うつもりだ


...


「あの…、すいません。陸上の合同練習で立ち入りを許可されてる者なんですが、空手部の矢吹鷹美さんにお会いしたいんで、恐縮ですが、お取りなしいただけますでしょうか?」

「…あなた、どこの人よ?」

「ああ、これは失礼しました。私、滝が丘高校の1年で横田競子といいます」

「あのさ!ウチら、すごい迷惑してんだけど!よそ様のグランドをズケズケと我が物顔でさ…、アンタねえ…」

「早苗、やめときなよ。この子、南玉と紅組の両方をバックにつけてる”例の”子だよ。ヤバイって…」

「…」

「…滝が丘の人、お目当ての矢吹鷹美は空手部の部室にいると思うから、ウチらが案内するよ」

「ありがとうございます…」


...



私は”合同練習”参加者なので、黒沼高への出入りは認められているが、矢吹先輩への面会は”目的外”となる

まあ、この学校のテツヤか大月さんに繋いでもらえば、それで済む

だけどここはあえて、他の黒沼生にエスコートを願うことにしたんだ

せっかくだから、ココの生の声に触れてみようと思ってね…

という訳で、私は校門脇で”それ相応”の下校二人組を見つけ、声をかけたんだけどね…

やっぱり、”私たち”への拒否反応は想像以上だったよ

でも、すんなり矢吹先輩への橋渡しは得られた

いかにも血の気の多そうなお姉さんに当たりをつけたのが、かえって幸いしたかな(苦笑)


...


私を先導しているお二人、興味深々といった様子で、後ろをちらちら見てるぞ

すると‥、後ろの私に、早苗さんと呼ばれてた方のお姉さんが話しかけてきた

「ねえ、アンタさあ…、紅丸さんとは”ホント”だったのね。それに、あの高原亜咲とお隣だったってのも」

「図書館で埼玉報知新聞のバックナンバーと住宅地図をね…。アンタ、大したもんねえ…」

げげっ…、マジ?

私のこと、リサーチ済ってことじゃん

こんな見ず知らずの人たちまでが…


...


「…その上、ウチの番格・矢吹鷹美ともツーカーってことなの?そうか、もう南玉に入ってるんだっけ…?」

「いえ、私、南玉連合には入ってません。入る気もありません。矢吹先輩のことは、少々存じあげてるだけです」

私…、こういう場面では、こんな態度になっちゃうだよな…、どうしても

「さあ、ここが空手部よ。どうする?私たちが鷹美に声かけしてもいいけど…」

「はい。是非、お願いします!」

このお二人は間違いなく3年だ

しかも、それなりに矢吹先輩とはパイプありと見受けた

ビンゴだったかな、はは…

なら、ご足労いただくのが礼儀だよね