麻衣ロード、そのイカレた軌跡/補完エピソーズ集

その11
ケイコ



「テツヤ…、今日一緒に走ってくれたこと、私、すごくうれしかった。黒沼の女子たちの目が注いでるのに…。伴走を誘ってくれたテツヤの言葉、私は忘れないよ。こんないい”友達”、いないって確信できた」

「おけい…」

「そんな最高の”友達”が、恋人に”変身”しちゃうなんてさ…、もう私、飛び上がりたいくらい感激なんだ。来週のデートを”その日”にしたい。テツヤ、それでいい?」

この時の私って…、”どっち”に振れても不思議なかったと思う

こういう言葉になったのも、理由などない咄嗟のものだったし…

「ああ、”その日”よろしくだ、おけい」

テツヤ…

私のことでも苦しんでくれて、テツヤ自身のことでも苦しませて

私を許してね


...



この日の別れ際、私たちは2度目の口づけを交わした

すでに夕暮れ時、車がバンバン通ってるバス停近くの歩道で…

人も行き交っていたが、この時の私たちには、人目など存在していなかったよ

これで、タイムテーブルが敷かれた…

不安と期待…

しかし、今の私には限りなく期待と希望のわくわく感で、不安は”添え物”の域にすぎなかった

この”添え物”はイコール、”その日”までの”時間”そのものだった


...



そして…

バス停を降りて間もなく、私は後ろから声をかけられた

「ねー、横田さんじゃない?」

振り返ると、やや髪を染めたスタイルの良い、見覚えのある顔だった

「しばらく…!中学卒業以来よね?」

この子、確か中学が同じだったわ

ええと…、ああ、思い出した、R子だ

このキツネのようなきつい目つきが特徴だったわ、この子…

「ああ、しばらく。でも、よく後ろ姿でわかったね…」

「うん。その足、そうはいないもんね(笑)。相変わらず長いわね。陸上やってるんでしょ?高校でも…」

「うん、やってるよ。でも、ケガで先週まで入院しててさ…」

R子は少し笑みを浮かべたが、すぐに元のきつい目つきに戻っていた

「聞いたわ。なんか…、南玉連合とその敵対グループの抗争に巻き込まれたんですって?」

はああ…、また”この話”になるのか…

「あのね…、実は折り入って頼みたいことがあるんだけど…」

どうやらR子も、私の”立場”を曲解しての”相談”か…

せっかくテツヤとの夢心地のひと時に浸っていたというのに…

いい加減、勘弁してくれっての…


...


「あのさ…、南玉連合の人とかに口利きとか期待してるなら、私、部外者だからさ…」

私はいつも通り、最初にやんわりとだが、”その手”の話を拒んだ

「ああ、いいのよ。そういう類のお願いじゃないから。私、これから人と会うんで、あとでお宅に電話してもいいかな?卒業名簿に変更とかない?」

「うん、変わりはないよ。これから家に帰るから、今晩は家にいると思う」

「そう。なら、今晩電話させてもらうわ。じゃあ、ごめんなさいね、いきなり呼び止めちゃって」

そう言った後、R子は足早に去って行った


...



R子とは中1の時、確かにクラスが一緒だったけど…

特段仲良かったわけでもないんだよな

どちらかというと、お互いの友人関係とかは正反対だったし

それが偶然会って、その場で相談だか頼み事だかって…

まあ、いいや

”例の”伝手をアテにされてるんじゃないようだし

無理な話なら断ればいいだけだわ

ふう~、でも退院早々、”いろいろ”あるなあ…

今日はさすがにタイトだったわ

さあ、帰ろうっと


...



その夜、R子から電話があるということなので、多美へは夕食後、早めに連絡した

テツヤとの話を伝えると、受話器の向こうの多美はほっとした様子だったな

「そんで、その買い物ってどこ行ったんだ?」

まあ、この問いかけには笑ってごまかしたけど(苦笑)

多美とは来週また、黒沼高校の”合同”で会う

これからは、夏の大会での競争相手になるからな

負けられないわ

うん、ピッチを上げてかなきゃ


...



そして、夜10時過ぎになって、R子から電話がかかってきた

「…横田さん、ごめんなさいね。遅くなっちゃって。あの後、外で人と会っててさ。今帰ったところなのよ」

「うん、大丈夫だよ。それで、話って何かな…」

「あのね、来週の木曜日に会えないかな。夜のたぶん7時くらいになると思う。出られる?」

「まあ、その日は部活終わってそのまま帰れば都合はつくけど…。でも、その前に大体の用件は聞かせて欲しいんだけど…。今日、偶然会っていきなりだから、ちょっと気になるしね」

私はあえて用件を先に聞いた

気を悪くするかもって思ったけど、やっぱりね…

彼女は少し間、沈黙していたわ