麻衣ロード、そのイカレた軌跡/補完エピソーズ集

その10
ケイコ



「テツヤ…、まず私、謝らなきゃ。さっきのこと…。私さ…、退院した後、周りの目がすっかり変わっちゃったのがストレスになってて、お前にあたっちゃったんだ。ゴメン。テツヤは私のそういうところなんか、百も承知でいれくれたのにさ」

さすがに土下座はできなかったが、テツヤの正面で私は頭を下げた

「ははは…、いいって。お前がつらい立場におかれてるのをわかっていながら、オレ、何もできなくてな。矢吹先輩からはさ、しっかりしろってハッパかけられてたんだ。へへ…」

テツヤ…

なんて優しんだよ、コイツ…


...


「ありがとう、テツヤ。とにかく、今日の私の態度、反省してます。だから…」

「ハイ!もう終りね、これで…。さあ、早く中へどうぞ、横田さん」

ここでおばさん、さすがは年の功といった”一声”が入った

「あの、おばさん、すいません。これからテツヤには、買い物一緒に行ってもらいたいんです。慌ただしくて申し訳ありませんが、このままテツヤ借りてもいいですか?」

「まあ!これからお買い物に…?そう…。じゃあ、仲よく行ってらっしゃい。そういうじっとしてられないところ、二人はよく似てるわね。横田さんのお母さんも言ってるけど、あなたたち、本当にいいカップルだわ。ウフフッ…」

おばさんは一瞬きょとんとした後、顔をほころばせて、そう言ってくれた

「テツヤ、カバンは私が預かるから。さあ…」

「うん、じゃあ頼むわ」

テツヤはおばさんに向かって、手にしていたマジソンをポンと投げた

そして…


...


「出かける前におやつだ。おけい、食えよ」

わー!やっぱり来たわ…

おばさんの言った通りだったよ

テツヤは、”マイ”プチトマトをふたつ捥いで、一個を私に手渡した

でもねえ…

これ、おいしそうではあるけど…

プチトマトを手にして固まっていた私を見て、おばさんはクスクス笑いながら言った

「横田さん、”あの話”はずっと前のことだから。大丈夫よ、口にしても。うふふ…」

「なんだよ、お母さん…。おけいにションベンの話ししたのかよ。もう…」

テツヤは少し顔を赤くしてるわ

で、私はテツヤのプチトマトを口に入れた

はは…、とてもおいしいや

テツヤと私はプチトマトを口に頬張りながら、”買い物”に出かけた

自分で言うのもなんだが、私らって、かなりせわしいや(苦笑)


...


私たち二人は、”目的”の店の前に着いた

「さあ、テツヤ。入ろう…」

私が店の中へ入ろうとすると、テツヤは立ち止まったままだ

まあ、そんなところだろうな(苦笑)

テツヤを連れてきたココ、ランジェリーショップだし…


...



「おい、おけい…、悪い冗談やめてくれよ」

「私は大真面目だって。あのさ、テツヤと一緒に選びたいんだ。行くぞ!」

私はためらうテツヤの手を引っ張って、店内に入って行った

いや、引きずり込んだってとこだわ

有無を言わせずにね(笑)


...



「前から欲しいのがあったんだ。まず、それを見て。ええと、あそこだったよな…」

店内には私たちの他に、OLっぽい若い二人連れしかいなかった

あと、20代後半くらいの店員さんが立ってるけど

当然、3人とも、私たちをチラチラ見てる

テツヤはその視線が、おそらくは痛かゆく感じてるだろう

「おい…、おけい、どういうつもりだよ。女の下着選ぶとこに連れ込んで…」

長身のテツヤは背中を丸めて、小声で私に詰問調だ

「テツヤ、お前に選んでもらいたいんだ。わかるだろ?その意味」

「おけい…」

この時、お互いの顔を見つめあってる二人の”距離”は、20センチくらいだったかな

もう、こんなにテツヤの顔、間近にしたのは初めてだった

しかし、テツヤも私もその眼差しは真剣だったし…

で…、しばらくは時間が止まったよ、そのまま

そして、テツヤが口を開いた

「わかった…。ちょっと恥ずかしいけど、一緒に選ばせてもらうよ」

私は無言で頷いた



...



「…よかった。私のお気に入りがテツヤに却下されなくて。へへ…」

「はは…、まあ、似合うと思ってさ…」

ランジェリーショップで”買い物”を済ませ、外へ出た私たちは自然と手をつないでいた

「じゃあ、来週二人で映画見に行く時、さっそく着けるぞ」

ハハハ…、私はもう、堂々としたもんだったわ

一方のテツヤは、照れくさそうな表情のままだよ

女の子の扱いなんか、ハンパなく年季が入ってるはずなのに…


...



そして、テツヤは下向いたまま、つぶやくように言った

「オレ、おけいが”それ”着けてるとこ想像しちゃってたよ。いやんなんないのか、そういうの…。お前さ…」

テツヤのこの言葉聞いた瞬間、なんかテツヤが急に気の毒になってきた

今日でもいいか…

私…、そのくらいの気持ちになりかけていたよ