たとえそれが、どんな結末だったとしても


「よし、ちょっとだけ海に入ってみよう」


そう言って靴を脱ぎ始めた彼。呆気に取られていると、「ほら、早く」と急かされる。

完全にこの人のペースに乗せられている気がするけれど仕方ない。

いくつもの通知が来ているスマートフォンの電源を切り、カバンの中にしまって私も靴とくつ下を脱いだ。


「莉夏!早く来いよ」


もう呼び捨て?と驚いたけど、声を辿った先には満面の笑みを浮かべている彼がいて。


「今行きますから」


少しだけ大きな声を出し、彼の後を追いかける。

キラキラと輝く海を背景に楽しそうにはしゃぐ彼。


「冷た!」

「まだ五月末なんだから、当たり前でしょ」


水面に勢いよく足を突っ込んだ奏太さんの叫びに思わす笑みが零れた。

なんだ、普通に男子高校生じゃん。

私もそっと水面に足を入れるけれど、案の定冷たくてすぐに引っ込める。


「…やっと笑った」


そんな声に顔を上げれば、すごく優しい微笑みを浮かべた奏太さんがいて。


「なん、ですか、その顔」

「喰らえ!」


つい呆然としていると、次の瞬間勢いよく水をかけられる。


「冷た!ふざけないでください!」

「いいからやり返してみろよ」


ニヤニヤと笑う奏太さんが海の中に入っていく。

寒いし、冷たいし、髪も服も濡れた。
最悪の状況なのに、何故か楽しくて。


「やり返せって言ったのは奏太さんですからね」


思いっきり彼の背中にぶつかって、そうしたら彼が水の中に倒れ込んで。


「バカ!冷たい海に沈める奴がいるか!」