たとえそれが、どんな結末だったとしても

彼が言っていた"海"は、思ったよりも近くにあった。平日の朝ということもあって全く人影がない。


どこまでも広がる海と空の境目は一本の線になり輝いていた。

まだ真新しい太陽の光が水面を跳ね返り、細かくなって消えていく。

ただの海だった。

それなのに、この世で一番美しいものなんじゃないか、とすら思う。


「座りなよ、ほら」


彼の言葉にはっと意識が引き戻されて、遠慮なく言われた通りにする。


「名前は?」


今度は突然、そう訊ねられた。

一瞬教えるか迷ったけれど、ここまで来たらもう答えるしかないような気がして。


「…莉夏です。あなたは?」

「奏太。高校三年生」

「私は高一です」


素直にそう答ると、彼も自分の名を教えてくれる。


…やっぱり年上だったんだ。

初対面なのに妙に畏まった感じがなかったから、何となくそんな気はしていた。

あとは、純粋に表情や対応がが大人びている感じがする。

逆に、同じ高校生なのが不思議なくらいだった。


「俺さ、旅行するのが好きなんだ」


突然話し始める彼___奏太さんの横顔をこっそりと盗み見る。

無邪気さの中に、寂しそうな、そんな感情が見え隠れしているようだった。


「だからさ、これから付き合ってよ」

「…はい?」

「一緒に行こう、いろんな場所に」


何を言ってるんだろう、この人は。

そう思ったけれど何故か断れなくて。


ただ黙って、こちらを向くことのない奏太さんの横顔を眺めていた。