「ちょっと、貴女。誰に向かって偉そうなこと、言ってるの? 所属と名前を言いなさいよ」
「はい。新入社員の神田まゆみです。今は総務に所属しています。何処の所属もコピー機の順番が混んでいて、一番空いてる経理に来てみたら、どうりで空いてるはずなのか納得出来ました。せっかく並んでても、無用な圧力が掛かるとは」
新入社員の神田まゆみさん。凄い人だ。
「貴女は、ボーッとしてないで、早くコピーを続けてね」
「は、はい」
思わず指を指されてしまったので、急いでコピー機の方に向き直り、残りのコピーを急いで始めた。
「ちょっと……」
「ちょっとでも沢山でも、何でも構いませんが、いくら先輩といえども、理不尽なこと言われている人を見ていて、同時に同期としても黙ってる訳にはいきませんから」
「神田……」
黒沢さんが下の名前を言いよどんでいる。どうも名前を忘れてしまったらしい雰囲気が背中越しに感じられた。経理に偶然にも神田さんが二人居る。しかも二人とも管理職だ。だから神田さんだけでは全員が返事をしてしまうこともあって紛らわしいため、自然とフルネームで呼ぶようになっていた。きっと怒りで興奮して、下の名前を忘れてしまったのかもしれない。
「神田まゆみです。神様の神に、壮大な田園の田。壮大な名字に対して、まゆみはひらがなで誰でも読める親しみやすい癒しの名前ですよ」
まるで、黒沢さんを小馬鹿にしたような言い方だ。す、凄いな。
あっ、終わった! 
「すみません。お待たせして、申し訳ありませんでした。ど、どうぞ」
コピーも終わったし、これ以上、あまり関わりたくなかった。それよりも時間がもう十四時に迫っている。こんなことはしていられないんだ。急がなきゃ。
席に戻ってセッティングを終えると、十四時十分前だった。
「高橋さん。お待たせしました」
「ありがとう。それじゃ、会議に行ってくる」
「は、はい。行ってらっしゃい」
間に合って、ホッとして席に着くと、真横に先ほどの神田さんが立っていた。
「ちょっと、いい?」
「は、はい」
驚いて、思わず立ち上がってしまった。
神田さん。いったい私に何の用だろう?
「あのさ、私達同期じゃない?」
「そうなんですか?」
「そうなんですか? って、矢島さんだっけ?」
「はい」
「このご時世にこの会社に入れた、貴重な生え抜きなのよ? いわば、エリートなの私達は」
生え抜きとかエリートとか言われても、私は……。
「新入社員の数も少ないことだし、仲良くしてね」
「は、はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
「ついては、今日の帰り、お茶して帰ろう」
「えっ?」
お茶って……。
「何か、用事でもある?」
「い、いえ。特にはないですけれど」
「じゃあ、決まりね。終わったら、駅地下のダンケに集合ね」
駅地下……ダンケ?
「それじゃ、後で」
「あ、あの、ちょっと、待っ……」
呼び止めようとしたが、神田さんは、振り返ることなく行ってしまった。
「矢島さん。この書類の縦計入れてくれる?」
「あっ、はい」