「あの、でも私は、いったい何をすれば? どうしたら、会社の……」
「俺のアシスタントだ」
「ア、 アシスタントですか?」
高橋さんのアシスタントって、それ、もの凄く大変なんじゃ?
「不満か?」
うわっ。
高橋さんが、刺すような強い視線の漆黒の瞳でこちらを見ながら顔を近づけた。
ち、近過ぎですって、高橋さん。
「ふ、不満なんてないです」
不満なんて全くない。高橋さんと、一緒に居られるんだったら……。
「それなら、決まりだ」
も、もう決まっちゃったの? 何だか、あっさり決まってしまって怖い感じだけれど、だとしても……。
『たとえ毛嵐のように消えてしまう運命だったとしても、その存在感と威厳を最後まで保ちたいと会社も俺も願っている』
大変なことはわかっていた。けれど、会社も高橋さんも願っていること。高橋さんと一緒に頑張れる。そう思うと、怖さと大変さの中にも、嬉しさと期待感でいっぱいだった。
「それじゃ、明後日からそのつもりで」
「は、はい。頑張ります」
助手席のドアを、高橋さんが開けてくれたが、どうも慣れないせいか、ぎこちない動作になってしまう。
「今日は、お疲れ様」
「お、お疲れ様でした。送って下さって、ありがとうございました」
「それじゃ、また月曜日」
「はい」
そして、高橋さんの乗った車が見えなくなるまで見送っていた私の頭の中にはこの時、高橋さんが言っていた、 『明日を生きるために、その限られているかもしれない会社の運命にその力を貸してくれ』 という言葉が、ずっと木霊していた。
明日を生きるために……。私も会社のために、頑張るぞ。
そんな気持ちも新たにしたのだったが、会社のためどころか、現実は想像以上に厳しいものだった。