翼君のお母さんの言葉が胸を締め付けていた。『でも、今の翼には、一日、一日がとても貴重で……。今日のこれも間に合って、本当に良かったと思ってます』『もう、翼には残された時間が……』
こんな時、何と返事をしたらいいのだろう。言葉が見つからないし、その言葉を見つける術も知らない私は……。
「翼君。矢島さんは、今はまだ見習いだから、飛行機には乗れないんだ。もう少し、勉強しないと駄目なんだよ」
高橋さん……。
「なぁんだ、そうなんだ。お母さん。このお姉ちゃん、まだ見習いだから飛行機に乗れないんだって。飛行機に乗ったら、これと同じ飛行機を作って貰いたかったんだけどなあ」
翼君……。
込み上げてくるものが、喉を締め付け、段々、視界が曇ってきて翼君の表情がよく見えない。
「泣くな」
えっ?
高橋さんが、お母さんと話をしている翼君を見ながら、小声で私にそう告げた。見ると、高橋さんの表情は翼君を見ていながらも真剣で……。しかし、翼君から一瞬、視線をこちらに向けた高橋さんの瞳は、とても鋭く威圧感があった。
「絶対に、涙は見せるんじゃない」
高橋さん……。
翼君に、涙を見せてはいけないんだ。無駄だとわかっていても、必死に瞳が乾くように辺りを見渡していると、周りの人達はみんな笑っていた。制服の着こなしが抜群の先輩達も、折原さんや総務の人達。そして、念のために部屋の片隅で待機してくれている医師や看護師の人達も、皆、今日の主役である子供達を見守りながら、笑みを浮かべている。
『今から部屋に入るけれど、いろんな意味で、とにかく笑顔を忘れないでね』 と、折原さんが言った言葉が思い出された。
この場所で、涙を見せることはタブー。笑顔だけが許される空間。その空間に居る私が見せてしまいそうになった涙に、高橋さんがストップを掛けてくれて……。
「だったら、僕がもっと元気になって飛行機に乗れるようになるのと、お姉ちゃんが飛行機に乗れるのと、どっちが早いか競争だね」
「えっ……」
視線を声のする方に向けると、翼君がニコニコしながらこちらを見ている。
「う、うん。そうだね。競争よ」
「僕、負けないから。点滴の針交換も頑張るし、注射も我慢するよ。お薬もちゃんと飲むから、お姉ちゃんには負けないよ」
翼君……。
そう言った翼君の瞳は澄んでいて、きらきらと輝くような眩しい笑顔に思わず目を細めてしまった。
「私だって……」
否、違う。私じゃない。
「お姉ちゃんだって、負けないからね」
翼君の澄んだ瞳と眩しい笑顔に、つい自分を出してしまっていた。子供の力って、本当に凄い。全力で、しかも計算などせず、こちらに向かってくる。それが大人社会に、まだ少しだが足を突っ込んでしまった私には、とても新鮮に感じられ、遠い昔に忘れてきてしまった何か……を、僅かながらだが思い出させてくれていた。それが何だったのか、今の余裕のない私には、分かるはずもなく……。
「翼君」
「何? 高橋さん」
こんな時、何と返事をしたらいいのだろう。言葉が見つからないし、その言葉を見つける術も知らない私は……。
「翼君。矢島さんは、今はまだ見習いだから、飛行機には乗れないんだ。もう少し、勉強しないと駄目なんだよ」
高橋さん……。
「なぁんだ、そうなんだ。お母さん。このお姉ちゃん、まだ見習いだから飛行機に乗れないんだって。飛行機に乗ったら、これと同じ飛行機を作って貰いたかったんだけどなあ」
翼君……。
込み上げてくるものが、喉を締め付け、段々、視界が曇ってきて翼君の表情がよく見えない。
「泣くな」
えっ?
高橋さんが、お母さんと話をしている翼君を見ながら、小声で私にそう告げた。見ると、高橋さんの表情は翼君を見ていながらも真剣で……。しかし、翼君から一瞬、視線をこちらに向けた高橋さんの瞳は、とても鋭く威圧感があった。
「絶対に、涙は見せるんじゃない」
高橋さん……。
翼君に、涙を見せてはいけないんだ。無駄だとわかっていても、必死に瞳が乾くように辺りを見渡していると、周りの人達はみんな笑っていた。制服の着こなしが抜群の先輩達も、折原さんや総務の人達。そして、念のために部屋の片隅で待機してくれている医師や看護師の人達も、皆、今日の主役である子供達を見守りながら、笑みを浮かべている。
『今から部屋に入るけれど、いろんな意味で、とにかく笑顔を忘れないでね』 と、折原さんが言った言葉が思い出された。
この場所で、涙を見せることはタブー。笑顔だけが許される空間。その空間に居る私が見せてしまいそうになった涙に、高橋さんがストップを掛けてくれて……。
「だったら、僕がもっと元気になって飛行機に乗れるようになるのと、お姉ちゃんが飛行機に乗れるのと、どっちが早いか競争だね」
「えっ……」
視線を声のする方に向けると、翼君がニコニコしながらこちらを見ている。
「う、うん。そうだね。競争よ」
「僕、負けないから。点滴の針交換も頑張るし、注射も我慢するよ。お薬もちゃんと飲むから、お姉ちゃんには負けないよ」
翼君……。
そう言った翼君の瞳は澄んでいて、きらきらと輝くような眩しい笑顔に思わず目を細めてしまった。
「私だって……」
否、違う。私じゃない。
「お姉ちゃんだって、負けないからね」
翼君の澄んだ瞳と眩しい笑顔に、つい自分を出してしまっていた。子供の力って、本当に凄い。全力で、しかも計算などせず、こちらに向かってくる。それが大人社会に、まだ少しだが足を突っ込んでしまった私には、とても新鮮に感じられ、遠い昔に忘れてきてしまった何か……を、僅かながらだが思い出させてくれていた。それが何だったのか、今の余裕のない私には、分かるはずもなく……。
「翼君」
「何? 高橋さん」

