新そよ風に乗って ② 〜時の扉〜

高橋さん……。本当に良かった。
異国の地で、しかも直ぐ傍でこんな事が起こって、高橋さんは大丈夫なんだろうか?
高橋さんの声が聞きたい。
欲張りだから、そんなことを考えてしまう。
仕事で行っているのだから。出張じゃないんだから。
高橋さんとの会話を思い出しながら、その日は安堵しながら眠ることが出来た。
しかしながら、たくさんの犠牲者を出したその出来事は、長く世界中に暗く辛い影を落としていた。
マンハッタンに居た誰もが遭遇してもおかしくないほど、多数の犠牲者が出てしまった悲劇的な大惨事。事故の遭った現場に近い場所に支社があったのに、高橋さんが事故に遭わなかったのは偶々で、運が良かったのかもしれない。そう思うと、足が今でも震える。

「矢島さん。この中のリストを見て、14時迄でいいから、書類集めをお願い出来るかな」
「はい。かしこまりました」
福本さんから受け取った封筒からリストを出してみると、国内出向者リストとあった。
もしかして……。
慌てて出向者リストを急いで捲っていったが、海外出向者リストは付いていなかった。
今年は、出向者はいないのかな? もし、ニューヨークに出向する人が居たらと、僅かな望みを抱いて慌ててリストを捲ってみたのだったが……。
また今年も、そんな季節になったんだ。
段取りを決めて、必要書類を集めて封筒に出向者の所属と氏名を書いて中に書類を入れていく。必要書類の在庫がなくなってしまったので原紙をコピーしながら、ふと思い出していた。
今日は、異動の辞令交付の日だ。もう、あれから2年経つんだ。早いと言えば、早いのかもしれないけれど。
入社3年目になって、やっと組織の中で働くということに慣れてきた。社会人とは、こういうものなんだという定義も少しは分かってきたような気もするけれど、まだまだ理解出来ていないというか未熟だと実感することも多々ある。
「矢島さん。書類集めているところ、申し訳ないんだけど……。ちょっと、お願い出来るかしら?」
「はい。何でしょうか?」
浦田さんが、申し訳なさそうに話し掛けてきた。