新そよ風に乗って ② 〜時の扉〜

エッ……。
ちょうど総務に行っていて戻ってきた隣の席の浦田さんが、覗き込んで話し掛けてくれた。
「は、はい。あの……福本さんに、今日発表になるので、手続きに必要な書類を分かる範囲でいいから揃えておいて欲しいと言われたのですが……」
「何のリスト? ああ、これね。今、手が空いてるから一緒にやりましょう」
浦田さんが少し屈んでリストを見ると、自分の机に書類を置いて椅子を私の席に近づけて座り、小声で話し始めた。
「出向者リストは、今日発表される異動の辞令と一緒に内示されるの。今日発表になる6月1日付の異動の辞令は、今日内示で来週の8日に発令。出向者に関しては国内と海外ではちょっと違っていて、国内は1ヶ月前内示の7月1日発令。海外組に関しては、2ヶ月前内示の8月1日発令。この日数の違いは、本社内異動だったら引き継ぎも同じ社内に居るわけだから、あまり問題ないといったら語弊があるかもしれないけれど、期間はそんなに要さなくていいのよ。だけど国内の地方の支店に出向する場合は、住居の問題や家庭を持っている方の場合は、帯同される場合、お子さんの就学の問題等もあるからある程度余裕を持って1ヶ月の準備期間を設けているの。それから海外組に関しては、国内組に更に期間を設けてあげないと、住居の確保や引っ越しも尚一層大変だから2ヶ月の猶予期間を設けて、その期間に何度か現地に出向いてもらって、向こうの現地スタッフと一緒に住居や諸々の準備をしてもらう手順になっているの」
「そう……なんですか……」
「だから、このリストからすると海外組6名、国内組32名だから、まず国内組の必要書類を揃えちゃいましょう。それを覚えちゃえば、海外組はそれに付随する書類が足されるわけだから」
「はい」
「そしたら、まず……」
浦田さんに教えてくれることをメモしながら、国内出向者の1人、1人に必要書類をセットしていき、途中からはだいぶ覚えてきたので、メモを見なくても必要書類を揃えられるようになっていった。
「必ず入れ忘れがないか、チェックしてね」
「はい」
書類が足りなかったりしたら、それこそ大変だ。
社内異動の人ならばいいけれど、出向者の人はそれでなくても限られた時間で引き継ぎや引っ越し等、色々とやることが沢山あるそうだから、書類が入っていなかったと人事に取りに来たりするのも大変だと思う。高橋さんだって……。
いけない、いけない。今は、仕事に集中しよう。でも、本当は仕事に集中して高橋さんがニューヨークに行ってしまうという事実を少しの間だけでも消し去っていたかった。