高橋さんは、そう言って私の涙をポケットから出したハンカチで拭ってくれた。
「あの、すみません。気がつかなくて、その……」
「それは、そうだ。気づかれたら、そっちの方がまずいだろう?」
はい?
「な、何がですか?」
「だってそうだろう? 俺の腹の中まで把握されてたら、それ怖いだろう」
高橋さんは車の天井を見上げると、そのまま首を少しだけ横に向けて私を見ながら微笑んだ。
まあ、確かに……。
「お任せでいいか?」
エッ……。
「あっ、あの、私は此処……」
「なーに?」
うっ……。
高橋さんが助手席の背もたれの右上を左手で掴みながら、顔を近づけきてジッと見られてしまった。
「い、行きます。行きます。是非、ご一緒させて下さい」
「それじゃ、行こう」
笑いながら高橋さんがシートベルトをしたので、それを見て慌てて私もシートベルトを締めると、高橋さんが左足を踏み込んでサイドブレーキを外し、車を発進させた。
和食を食べながら他愛ない話をしていると、何だか来週からも高橋さんと一緒に仕事が出来るんじゃないかと錯覚してしまう。でも、今は来週からのことを考えるのはよそう。この楽しい大切なひとときが、台無しになってしまう。そう思って、なるべく仕事のこと以外の話をするよう心掛けた。
「そろそろ、帰るか」
高橋さんの言葉で反射的に時計を見ると、22時前だった。
まだ一緒に居たい。ずっと話していたい。そんな感情でいっぱいになっていたが、それは同時に、またこの先、辛くなるだけだということを示している。
会計を終えて、駐車場に向かう途中で高橋さんを呼び止めた。
「あの、高橋さん。これ」
日頃からずっとご馳走になっていたので、1万円札を高橋さんに差し出すと、何も言わずにまたしてもその1万円札を押し戻されて、そのままお財布にしまわれてしまった。
「でも……」
「そのうち、またいつか食事したら、その時はご馳走してもらうから」
高橋さん。
そう言って高橋さんは、そのまま駐車場の方へと歩き出していた。
そのうち、またいつか。そんな時が、本当に来るのだろうか。遠くなっていく高橋さんの後ろ姿を見つめながら、そのジャケットを羽織った背中に向かって小声で話し掛けた。
「その時がなかったら……」
聞こえていない高橋さんの背中が、だんだん離れていく。それは、これから先の高橋さんと私との距離にラップしているようだ。離れていってしまうのに、どうしてまた食事なんて出来るのだろう。その時って……。
「その時がなかったら」
「あの、すみません。気がつかなくて、その……」
「それは、そうだ。気づかれたら、そっちの方がまずいだろう?」
はい?
「な、何がですか?」
「だってそうだろう? 俺の腹の中まで把握されてたら、それ怖いだろう」
高橋さんは車の天井を見上げると、そのまま首を少しだけ横に向けて私を見ながら微笑んだ。
まあ、確かに……。
「お任せでいいか?」
エッ……。
「あっ、あの、私は此処……」
「なーに?」
うっ……。
高橋さんが助手席の背もたれの右上を左手で掴みながら、顔を近づけきてジッと見られてしまった。
「い、行きます。行きます。是非、ご一緒させて下さい」
「それじゃ、行こう」
笑いながら高橋さんがシートベルトをしたので、それを見て慌てて私もシートベルトを締めると、高橋さんが左足を踏み込んでサイドブレーキを外し、車を発進させた。
和食を食べながら他愛ない話をしていると、何だか来週からも高橋さんと一緒に仕事が出来るんじゃないかと錯覚してしまう。でも、今は来週からのことを考えるのはよそう。この楽しい大切なひとときが、台無しになってしまう。そう思って、なるべく仕事のこと以外の話をするよう心掛けた。
「そろそろ、帰るか」
高橋さんの言葉で反射的に時計を見ると、22時前だった。
まだ一緒に居たい。ずっと話していたい。そんな感情でいっぱいになっていたが、それは同時に、またこの先、辛くなるだけだということを示している。
会計を終えて、駐車場に向かう途中で高橋さんを呼び止めた。
「あの、高橋さん。これ」
日頃からずっとご馳走になっていたので、1万円札を高橋さんに差し出すと、何も言わずにまたしてもその1万円札を押し戻されて、そのままお財布にしまわれてしまった。
「でも……」
「そのうち、またいつか食事したら、その時はご馳走してもらうから」
高橋さん。
そう言って高橋さんは、そのまま駐車場の方へと歩き出していた。
そのうち、またいつか。そんな時が、本当に来るのだろうか。遠くなっていく高橋さんの後ろ姿を見つめながら、そのジャケットを羽織った背中に向かって小声で話し掛けた。
「その時がなかったら……」
聞こえていない高橋さんの背中が、だんだん離れていく。それは、これから先の高橋さんと私との距離にラップしているようだ。離れていってしまうのに、どうしてまた食事なんて出来るのだろう。その時って……。
「その時がなかったら」

