このシートに座りたい。でも座れない。
「どうした? 何か忘れ物か?」
「あの、高橋さん。すみません。せっかくですが、私、やっぱり電車で帰ります」
「……」
高橋さんは、助手席のドアを持ったまま黙って私を見ている。
「すみません。紙袋を……」
「まだ、さっきの話が終わってない」
高橋さん?
さっきの話って、何だろう?
「あの……」
「話は後だ。取り敢えず乗って」
「えっ? で、でも……」
半ば押し込まれるようにして高橋さんに助手席に座らされ、そのままドアを閉められてしまった。
高橋さんはそのまま車を走らせ、駐車場から出ると暫く黙って運転していたが、信号待ちで停まるとこちらを向いたのがわかった。
何を言われるんだろう。何だか、ビクビクしてしまう。
「そんなに、身構えることないだろう」
「えっ? あっ、いえ、そ、そんなことないです」
焦りながら言っていると、高橋さんは優しい笑みを浮かべながら信号が青に変わったので、また前を向いて運転していた。
こうして高橋さんに送ってもらうのも、今日が最後なんだ。それを思い出してしまうと胸が苦しくなって、つい下を向いてしまっていた。
「大丈夫か? 酔ったか?」
「あっ、いえ、そんなことないです」
高橋さんに心配されてしまった。こんなんじゃ、駄目だ。もっと、しっかりしなくては。そう心の中で自分を振るい立たせて前を向いていると、見覚えのある道に差し掛かり、もうすぐ家に着いてしまうことが自然と分かってしまった。
「さっきの話の続きだが……」
エッ……。
あと100メートルぐらいで家の前に着く頃、高橋さんが口を開いた。
「あの、さっきの話の続きというのは、何のことでしょうか?」
すると、家の前に着いてしまい、高橋さんが左足でサイドブレーキのペダルを踏み込むと、バックミラーを見ながらハンドルから手を離した。
「まともに考えても、お前が人事部に本配属になることは、直属の上司だから事前に知らされていたのは事実だ」
やっぱり……。やっぱりそうだったんだ。
「そうですか。やっぱり、そうですよね」
「やっぱり?」
「やっぱり私は、会計には不要だったんですね」
「……」
さっきの話の続きというのは、このことだったんだ。まるで引導を渡されたような気分で、出来れば話の続きは聞きたくなかったとさえ思ってしまった。
「高橋さん。送って下さって、本当にありがとうございました。色々、最後までご迷惑をお掛けして、申し訳ありませんでした。おやすみなさい」
後部座席に置いてくれてある紙袋を取るには、一旦、降りなければ取れないので、とにかく今は助手席から降りようとしてドアに左手を掛けた。
うわっ。
しかし、その左手の上から高橋さんの左手が被さって、ドアから左手を離されて手を掴まれてしまった。
咄嗟のことで何がなんだかよくわからなかったが、高橋さんの左腕が顔の目の前にあり、無意識に息を止めている。
「どうした? 何か忘れ物か?」
「あの、高橋さん。すみません。せっかくですが、私、やっぱり電車で帰ります」
「……」
高橋さんは、助手席のドアを持ったまま黙って私を見ている。
「すみません。紙袋を……」
「まだ、さっきの話が終わってない」
高橋さん?
さっきの話って、何だろう?
「あの……」
「話は後だ。取り敢えず乗って」
「えっ? で、でも……」
半ば押し込まれるようにして高橋さんに助手席に座らされ、そのままドアを閉められてしまった。
高橋さんはそのまま車を走らせ、駐車場から出ると暫く黙って運転していたが、信号待ちで停まるとこちらを向いたのがわかった。
何を言われるんだろう。何だか、ビクビクしてしまう。
「そんなに、身構えることないだろう」
「えっ? あっ、いえ、そ、そんなことないです」
焦りながら言っていると、高橋さんは優しい笑みを浮かべながら信号が青に変わったので、また前を向いて運転していた。
こうして高橋さんに送ってもらうのも、今日が最後なんだ。それを思い出してしまうと胸が苦しくなって、つい下を向いてしまっていた。
「大丈夫か? 酔ったか?」
「あっ、いえ、そんなことないです」
高橋さんに心配されてしまった。こんなんじゃ、駄目だ。もっと、しっかりしなくては。そう心の中で自分を振るい立たせて前を向いていると、見覚えのある道に差し掛かり、もうすぐ家に着いてしまうことが自然と分かってしまった。
「さっきの話の続きだが……」
エッ……。
あと100メートルぐらいで家の前に着く頃、高橋さんが口を開いた。
「あの、さっきの話の続きというのは、何のことでしょうか?」
すると、家の前に着いてしまい、高橋さんが左足でサイドブレーキのペダルを踏み込むと、バックミラーを見ながらハンドルから手を離した。
「まともに考えても、お前が人事部に本配属になることは、直属の上司だから事前に知らされていたのは事実だ」
やっぱり……。やっぱりそうだったんだ。
「そうですか。やっぱり、そうですよね」
「やっぱり?」
「やっぱり私は、会計には不要だったんですね」
「……」
さっきの話の続きというのは、このことだったんだ。まるで引導を渡されたような気分で、出来れば話の続きは聞きたくなかったとさえ思ってしまった。
「高橋さん。送って下さって、本当にありがとうございました。色々、最後までご迷惑をお掛けして、申し訳ありませんでした。おやすみなさい」
後部座席に置いてくれてある紙袋を取るには、一旦、降りなければ取れないので、とにかく今は助手席から降りようとしてドアに左手を掛けた。
うわっ。
しかし、その左手の上から高橋さんの左手が被さって、ドアから左手を離されて手を掴まれてしまった。
咄嗟のことで何がなんだかよくわからなかったが、高橋さんの左腕が顔の目の前にあり、無意識に息を止めている。

