新そよ風に乗って ② 〜時の扉〜

エレベーターに乗ると高橋さんにそう言われ、あまりにも事務的な言葉に返事が出来なかった。
きっと、私は会計には不向きだったんだ。私の後に来る人は、どんな人なんだろう。新人なのかな。それとも6月1日付けの異動で来るのかな。聞いてみようかな。
「あの……。私の後に来る方は、同じ新人ですか?」
「……」
声が小さくて、聞こえなかったのかな。
「高橋さん。あの……」
「人事的なことは、話せない」
高橋さん……。
「降りて」
「あっ、はい」
エレベーターを降りて経理の事務所に戻ると、ヒソヒソと私を見ながら話しているのが歩いていてもわかった。
席に戻り、雑音をなるべく聞かないようにしようと気を取り直して、先ほどからやっていた合わない計算を本腰を入れてやり直していた。
「やっぱり使えない人材は、不要よね」
その声に顔を上げると、黒沢さんが立っていた。
この人とも、今日でお別れなんだ。
そう思ったら、もう動揺も何も感じない。むしろ、その通りだと思っているので、その言葉に納得している自分が居る。
「それは、私のことですか?」
エッ……。
「な、何でそんなこと、おっしゃるんですか。高橋さんが使えない人材だなんて、誰一人思っておりませんよ」
「そうでしょうか? ですが、確証はないですよね」
「……」
高橋さんは、黒沢さんに対峙するように歩み寄って立つと、鋭い眼光で黒沢さんを見据えた。
黒沢さんの身長は、163センチ前後だろう。神田さんと同じぐらいだが、折原さんよりは低い。高橋さんの身長は、確か181センチだって聞いた気がするから、黒沢さんと約20センチの身長差なんだけれど、今の高橋さんの威圧感はそれ以上に感じられる。
「使える人材、使えない人材というのは、誰が決めるのですか? 寧ろ、お聞きしたい。使える人材と使えない人材との線引きは、何処でしているのでしょうか? 勉強不足なもので、お教え頂けますと景福です」
高橋さん……。高橋さんは、決して声を荒げることや激怒するといった行動をとっているところを、僅か一ヶ月半ぐらいしか一緒に仕事をしなかったが見たことがなかった。恐らく、喜怒哀楽をあまり表だって出す人ではないのかもしれない。だからこそ、うちに秘めているものが大きいとも思えたりもする。けれど淡々と話す時の高橋さんには、いつも以上に隙がないから、穏やかな口調と表情であっても返って威圧感いっぱいだったりするんだ。
「高橋さん。私、そんな深い意味を込めていったのではないのですよ。現に、高橋さんに向かって言ったのではないですし……」
「では、前言を撤回して下さい」
「えっ?」
高橋さん?