「俺がこうしたら、どうする?」
「た、高橋さん」
高橋さんは、いきなり私の両手首を掴んだ。
「……」
「高橋さん。離して下さい」
いきなり掴まれた両手首は、高橋さんにガッチリ掴まれていてビクともしない。それどころか、何とか離そうとすると余計な力が入り手首が痛い。
「いいか。飲んでも飲まれるな。飲まれるぐらいなら、最初から飲むな。酒は楽しく飲むもので、決して我を忘れるためのものではない。自分の限度を超えて飲むと、後に待っているものは虚無感だけだ」
「虚無感……」
「そうだ。一時の快楽は得られるが、その後、襲ってくるのは苦しみ、後悔、劣等感だけだ」
苦しみ、後悔、劣等感?
首を傾げている私を見て、高橋さんは両手首を持ったまま、座っている私の視線に合わせるように屈んでくれた。
「苦しみは、二日酔いだ。劣等感は、二日酔いで苦しんでる自分に、何でこんなことしたんだろうと後悔とともに訪れる、自分の不甲斐なさに劣等感を覚える」
高橋さん……。
まるで高橋さんは、どっちも経験したみたいな感じの言い方だ。
あれっ?
でも、後悔は? 確か、苦しみ、後悔、劣等感だけだと言ってた気がする。
「あの……。後悔は、何なんですかあ?」
「ん? 後悔か? 後悔は……」
すると、高橋さんが私の両手を引き寄せると、屈んでいた高橋さんの顔が度アップで迫っていた。
ち、近過ぎます。近過ぎですって、高橋さん。
「こんな感じになったら、どうする?」
「た……」
息が掛かるほど、間近に迫った高橋さんの顔を見て、思わず声が出なくなってしまっていた。
「呂律はまわらない。足下はおぼつかない。それで、どうやって部屋まで帰るんだ。自宅に帰らなくていいと思ったかもしれないが、それ以前に部屋まで帰れなくてどうする」
「そ、それは……」
「いいか。酔っていても、これだけはよく覚えておけ。世の中、全ての人が善人とは限らない。残念なことに、善より悪が勝ってしまってる人間も居る。酒を飲む時は、腹を割って話す心は持ってしても、気持ちは許すな」
高橋さん。
「たとえ、その相手が男でも女でもだ。気持ちが緊張していれば、相手に隙を見せることもない。強いては醜態晒すことも」
「醜態……」
「そうだ。気持ちが緩めば、とかく人間は楽を選びたがる。限度を超えて飲めば、酔って眠くなって、しまいに相手を頼ろうとする。そこにつけいってくる人間もいる。そうなってからでは、遅いだろう?」
「じゃ、じゃあ、いつも疑って掛かれと言うことですかあ? どんなに親しい人でも、そんな疑いの目で見なければいけないんですかあ? それこそ、何だか虚しくないですかあ? 同じ会社の人なのに、疑うなんて……」
「……」
高橋さんは、何で黙っているの?
私のことも、そういう目で見ていたの? 心は許せても、気持ちは……。
「私は……。私は、高橋さんにとっては、新入社員の部下ですものね」
不思議と、この時は普通の口調で言えていた。それが何だか哀しく、そんな自分が悔しかった。素面で言いたかった。でも、酔った勢いでなければとても言えなかっただろうけれど。
「部下以外に、何かあるのか?」
「た、高橋さん」
高橋さんは、いきなり私の両手首を掴んだ。
「……」
「高橋さん。離して下さい」
いきなり掴まれた両手首は、高橋さんにガッチリ掴まれていてビクともしない。それどころか、何とか離そうとすると余計な力が入り手首が痛い。
「いいか。飲んでも飲まれるな。飲まれるぐらいなら、最初から飲むな。酒は楽しく飲むもので、決して我を忘れるためのものではない。自分の限度を超えて飲むと、後に待っているものは虚無感だけだ」
「虚無感……」
「そうだ。一時の快楽は得られるが、その後、襲ってくるのは苦しみ、後悔、劣等感だけだ」
苦しみ、後悔、劣等感?
首を傾げている私を見て、高橋さんは両手首を持ったまま、座っている私の視線に合わせるように屈んでくれた。
「苦しみは、二日酔いだ。劣等感は、二日酔いで苦しんでる自分に、何でこんなことしたんだろうと後悔とともに訪れる、自分の不甲斐なさに劣等感を覚える」
高橋さん……。
まるで高橋さんは、どっちも経験したみたいな感じの言い方だ。
あれっ?
でも、後悔は? 確か、苦しみ、後悔、劣等感だけだと言ってた気がする。
「あの……。後悔は、何なんですかあ?」
「ん? 後悔か? 後悔は……」
すると、高橋さんが私の両手を引き寄せると、屈んでいた高橋さんの顔が度アップで迫っていた。
ち、近過ぎます。近過ぎですって、高橋さん。
「こんな感じになったら、どうする?」
「た……」
息が掛かるほど、間近に迫った高橋さんの顔を見て、思わず声が出なくなってしまっていた。
「呂律はまわらない。足下はおぼつかない。それで、どうやって部屋まで帰るんだ。自宅に帰らなくていいと思ったかもしれないが、それ以前に部屋まで帰れなくてどうする」
「そ、それは……」
「いいか。酔っていても、これだけはよく覚えておけ。世の中、全ての人が善人とは限らない。残念なことに、善より悪が勝ってしまってる人間も居る。酒を飲む時は、腹を割って話す心は持ってしても、気持ちは許すな」
高橋さん。
「たとえ、その相手が男でも女でもだ。気持ちが緊張していれば、相手に隙を見せることもない。強いては醜態晒すことも」
「醜態……」
「そうだ。気持ちが緩めば、とかく人間は楽を選びたがる。限度を超えて飲めば、酔って眠くなって、しまいに相手を頼ろうとする。そこにつけいってくる人間もいる。そうなってからでは、遅いだろう?」
「じゃ、じゃあ、いつも疑って掛かれと言うことですかあ? どんなに親しい人でも、そんな疑いの目で見なければいけないんですかあ? それこそ、何だか虚しくないですかあ? 同じ会社の人なのに、疑うなんて……」
「……」
高橋さんは、何で黙っているの?
私のことも、そういう目で見ていたの? 心は許せても、気持ちは……。
「私は……。私は、高橋さんにとっては、新入社員の部下ですものね」
不思議と、この時は普通の口調で言えていた。それが何だか哀しく、そんな自分が悔しかった。素面で言いたかった。でも、酔った勢いでなければとても言えなかっただろうけれど。
「部下以外に、何かあるのか?」

