新そよ風に乗って ② 〜時の扉〜

「わかりました。じゃあ、俺、先に行きます。あっ、乗ります」
中原さんは携帯を高橋さんに返すと、走ってドアが開いているエレベーターに飛び乗っていってしまった。
「あっ、私のバッグ……」
「大丈夫だ。また中原は、戻って来るから」
「はい」
何故か、もう反抗する気になれず、素直に返事をしていた。
すると、高橋さんはエレベーターホールの前を素通りして、そのまま通路を真っ直ぐ進んでいる。
何処に行くんだろう?
そして、何処かの自動ドアの出口から外に出た。
「高橋さん。何処に行くんですかあ? お部屋に……えっ?」
ホテルから外に出て少しだけ歩いていた高橋さんが、1メートルぐらいの高さがある花壇の縁に、おんぶしていた私を降ろして座らせてくれた。
「あのお、高橋さん?」
「これでも飲んで、少し酔い醒ませ」
「えっ?」
そう言いながら、高橋さんがポケットから小さめのペットボトルに入ったミネラルウオーターを私に差し出してくれた。
「はーい。すみません。ちょうど、喉が渇いてたんですよお。頂きまあす」
飲みながら頬を撫でる四月の夜風が、とても気持ちいい。。
「ああ、何か気持ちいいですね。涼しくて」
「……」
高橋さんに話しかけたのだが、返事をしてくれない。
ふと見ると、高橋さんも花壇の縁に座って煙草を吸っていたが、私との間には1メートルぐらいの距離がある。もしかして、聞こえなかったのかな?
「高橋さん。聞こえてますかあ?」
「聞こえてる」
即答で応えてくれた高橋さんだったけれど、いつものように私の目を見て返事をしてくれなかった。右手に持った煙草を両足の間に置いて前を向いたまま、それ以上は話してくれない。
何となく、この気まずい雰囲気が嫌だな。何か聞いてみよう。そうすれば、応えてくれるはず。ミネラルウオーターを一口飲んでから、話しかけてみた。
「あのですねえ、高橋さんは、お酒強いんですか?」
「どうだろうな。お酒が強い、弱いの基準が何処にあるのかわからないから」
「じゃ、じゃあ、今日は何本ぐらいビールを飲みましたか?」
「お前は、何本飲んだ?」
エッ……。