新そよ風に乗って ② 〜時の扉〜

「あっ、高橋さんだあ」
自分の意思に反して、語尾が伸びてしまった。
「私のビール、返して下さーい」
「中原も、あまり飲ませるな」
「はい。すみません」
高橋さんは、私の声には耳を貸さず、中原さんと話している。
「高橋さん! 返して下さいって……ああっ」
高橋さんの右手に握られている缶ビールを取り返そうと、高橋さんの右腕を両手で掴んで手を下げさせようとしたが、微動だにしない。それどころか反対に腕を持ち上げて、あっという間にまだ残っていたビールを一気飲みされてしまった。
「ああっ、私のビール……」
「部屋に帰るぞ」
そう言うと、高橋さんは飲み干した缶をそのままバリバリと音をさせながら右手だけで潰した。
「持ってきたのは、これだけか?」
「何ですかあ?」
「多分、そうだと思います。俺が会った時は、そのバッグだけしか持ってなかったと思います」
「ほら、立てるか?」
「勿論、立てま……キャッ」
嘘。た、立てない。
倒れそうになったところを高橋さんに腕を掴まれて、辛うじて立っている感じだ。
「まずいな……。中原。悪いが矢島さんのバッグ持ってくれるか?」
「はい」
見ると、中原さんが高橋さんからバッグを受け取っていた。
「あの、バッグは自分で持てますよ−」
「お前はいいから。ほら、肩に手を回せ」
エッ……。
すると、高橋さんがいきなり目の前で屈んだ。
な、何?
「高橋さん? どうしたんで……うわっ」
話しかけている途中で高橋さんがいきなり今度は立ち上がって私の両腕を持つと、また少しだけ屈んだと思ったら、あっという間におんぶされていた。
「ちょ、ちょっと、あの、高橋さん。降ろしてくらはい」
あれ? 上手く言えない。
「暴れるな。大人しくしてろ。余計酔いが回るぞ?」
「嫌だ。恥ずかひいから、降ろしてくだはい」
必死に降りようとしてみるが、高橋さんの両手で両足をギュッと押さえられていて、思うように動けない。
宴会場の出口へと向かいながら、途中、高橋さんはパンツの後ろのポケットに何かを入れていた。何を入れたんだろう?
「中原。頼みがある」
「はい」
「折原に電話してくれないか?」
高橋さんが、ポケットから片手で私を支えながら携帯を取り出して中原さんに渡した。
「アドレス帳から引っ張ってくれ」
「はい」
中原さんは、高橋さんの携帯画面を開き、折原さんに歩きながら電話を掛けている。
エレベーターホールに向かう途中、まだ残っている人や宴会場の外で立ち話をしている人達に、何事かとジロジロ見られている。
恥ずかしい……。
「高橋さん」
「何だ?」
「お願い……」
「駄目ですね。何度か掛けたんですが、電波が悪いのか電源切られてるのか、通じません。俺、ちょっと捜してきます。高橋さん達の同期は、どこら辺に集まってそうですか?」
「多分、総務の階だと思う」