新そよ風に乗って ② 〜時の扉〜

「は、はい」
話題を逸らそうと関係ない話を持ち出したが、無理に笑顔を作ろうとして、自分でも顔が引きつっているのがわかる。
「支店担当に書類を渡す約束をしてたから、それを酔う前に届けに行ってきたんだが、それがどうかしたか?」
どうかしたか? と、聞かれても……困っちゃう。
「いえ……。どうもしないのですが……」
「フッ……。酔ってるのか?」
首をすぼめながら語尾が小さくなった私を見て、高橋さんが笑っている。
「そんなことないです。酔ってません」
ただ、舞い上がってるだけなんです。高橋さん。
そうだ!
こんなことしてる場合じゃなかったんだ。謝らなきゃ。高橋さんに、謝りたかったんだ。
「あの、高橋さ……」
「高橋さん。こちらに、いらしたんですね。随分と捜しましたわよ」
だ、誰?
「そうですわよ。紺野さんは、高橋さんのお部屋にまで伺ったんですのよ?」
紺野さん?
「奥の男子社員の部屋までいらしてて、何故、私の部屋の前は素通りなんですの?」
「ああ、すみません。仕事の書類を届けに行ったものですから」
「今夜はとことん、お話のお相手をして頂きたいですわ」
な、何、この人。
でも、高橋さんが支店担当に書類を届けに行ってきたとさっき言ってたから、もしかしたらこの人も支店担当の人なのかもしれない。
「そうでしたの。それじゃ、何処か静かな場所で飲み直しませんか?」
「そうですね。お気持ちは、有り難いのですが……」
静かな場所って?
「高橋さーん。もう、何処に行ってたんですかあ? なかなか帰ってこないから、心配になって迎えに来ちゃったあーん」
出た。土屋さん。
「あら? 売掛金の土屋さん。ごきげんよう。何かしら? かなり酔っていらっしゃる?」
「いいえ。そんなことは、ございません。紺野さん。高橋さん。さあ、戻りましょ」
「ちょっと、高橋さんは私と今から飲み直すので……。あっ。待ちなさい! 土屋。抜け駆けは、許さないんだから」
「それは、こっちの台詞よ」
うわっ。な、何だか怖いな。あの二人。
あっ……。
高橋さん。高橋さんに謝りたかったのに、また言えなかった。
土屋さんに引っ張られるようにして、経理のテーブルに戻っていく高橋さん。その横には、ピタッと紺野さんとその取り巻きがくっついている。そんな高橋さんの後ろ姿を見ていたら、何だか無性に腹が立っていた。高橋さんに対して腹を立てるなんて、お門違いなのはわかっている。だけど、何だかイライラする。