新そよ風に乗って ② 〜時の扉〜

「出し物には出ないけど、宴会には参加するんだ」
そんな……。
「ちょっと、近藤。そういう言い方、良くない」
神田さんが近藤さんを呼び捨てにすると、尚更、近藤さんの顔が険しくなった。
「だって、そうだろう。本当のことを言っただけだよ。俺がどれだけ……」
「可愛いわ」
「えっ?」
神田さんの言い方は、明らかに人を小馬鹿にしたような口調に聞こえる。
「あら、聞こえなかった? 可愛いって言ったのよ」
神田さん。
「お前、俺を馬鹿にしてるのか?」
「そういうところは、敏感なのね。但し、お前じゃないから。My name is 神田。神田まゆみ。神様の神に、田んぼの田。万人に愛され、誰もが読めるようにと、まゆみはひらがな。覚えといて頂戴」
「お前……」
「だから、神田よ。覚えが悪いわね。同期なんだから、浪人してたとしても一歳か二歳しか変わらないはず。それにダブりが入ったら、また別だけど。どっちにしたって惚けるには、ちと早い。まだ若いんだから。まあ……最も、心中穏やかじゃない時に、こんなこと言っても無駄でしょうけど」
「何が言いたいんだよ」
神田さんは、明らかに近藤さんを挑発しているように見える。近藤さんは拳をギュッと握って、今にも殴りかかりそうな気配だ。
「こんな風に面と向かって言われたら、近藤だって腹が立つでしょ? 潜在的意識で、男だし腕力があるから女には言い返せるからいいでしょうけど。でもさ、言い返せない男子だっているんだよ。厳密に言えば、言い返さないって言った方が正しいかも。何故だか、わかる?」
「……」
「あなたには、わからないでしょうね。わかってたら、陽子にあんな台詞は吐かない。吐けない。あなたには、弱い者の気持ちがわかってない」
「弱い者の気持ち?」
「幾つになったって、男も女も単純なのよ。で、男は女に泣かれると弱い。それは、自分より弱いとわかってるから。そのわかってる相手に泣かれたら、自分が悪くなくてもそんな気持ちになっちゃうのよ。それを知ってて計算してつけ込む女は、もっと愚の骨頂だけど」
神田さん……。
「だから、言い返せない男子は、単に大人しいとかだけじゃなくて、わかってて言い返さないこともあるってこと。誰だって気は強いの。でなきゃ、人生背負って毎日、毎日生きて行けないわよ」
「……」
近藤さんは、黙ったまま神田さんを睨んでいる。
「だから、女子に呼び捨てにされて、ムッとしているのが顔に出ているようじゃ、まだまだ可愛いってこと。近藤は、これからもっともっと叩かれた方がいい。堪え性のない男は、嫌われるよ」
「ちょ、ちょっと、神田さん」
思わず、神田さんの腕を引っ張っていた。
「ハハッ……。気に入ったよ、お前」
「だから、私は神田だって……」
近藤さんに言い返しながら、部屋の中にツカツカと入っていった神田さんの後ろ姿を見ながら、何となく居場所がないような気がした。
誘ってくれた神田さんには悪かったが、気まずい雰囲気を作ってしまった自分は、やっぱり此処に今、居るべきではないと思えて、そっと部屋を出た。