新そよ風に乗って ② 〜時の扉〜

「あの……」
「何だ?」
「私……。ごめんなさい。知らなくて、こんな大事なことが控えていたなんて知らなくて。それなのに……あっ、すみません」
「矢島さんに、謝られる覚えはないんだが」
でも、高橋さん。私にはあるんです。
高橋さんは、小首を傾げながらウーロン茶をグラスに注いでくれている。茶色の液体がグラスに注がれていく様子を見ながら、きちんと謝ろうと気持ちを奮い立たせていた。
「と、とにかく、乾杯しましょう」
中原さんに促されて、グラスを手に取った。
「高橋さん。おめでとうございます」
あっ、私も言わなきゃ。
「お……」
「高橋さーん。おめでとう」
な、何?
高橋さんと中原さんと乾杯しようとしたところに、四方八方から無数のグラスが一緒に乾杯に加わってきていた。
「高橋さーん。格好良かったですうーん」
つ、土屋さん。
その後、何故か、経理全体が乾杯ムードになってしまい、高橋さんに謝れるような状況ではなくなってしまった。
「副社長。貴重なお話、ありがとうございました。それでは、宴たけなわではございますが、この辺でお開きにしたいと思います。尚、こちらの宴会場は、深夜0時まで貸し切りでお借りしておりますので、このまま残って頂いても構いませんが、他のお客様のご迷惑になりますから、くれぐれも宴会場の出入り口のドアは閉めて下さいますよう、よろしくお願いします。それから、明日の朝食はビュッフェで7時から10時の間、引換券で食事が出来ますので、二日酔いの方も是非、美味しい朝食を召し上がってからチェックアウトして下さい。それでは、解散します」
司会進行者の合図でお開きになったが、宴会場に殆どの人が残っている。
そういう私も、高橋さんの周りに沢山人が集まってきていて、隣に座っていたため、立つに立てない状態だ。
「高橋さーん。これからのスケジュールは、どうなってるんですかあーん」
スネーク女……。
折原さんが言った言葉の意味が、何となくわかったような気がする。
クネクネしながら高橋さんに話しかけるその仕草は、まさにそのもの。