普段、高橋さんは机の上に電卓を置いていて、普通に打っていた気がする。だけど、それは私が気づかなかっただけかもしれない。机の上に置いていても、打ち方は同じだったのかも……。
「あっ」
中原さんの声と同時に、会場から歓声と悲鳴が同時に響き渡った。
「総務が答え書き……あっ、高橋さんも答え書き出した」
総務の人が、一番早く解答欄に数字を記入し始めている。その後を追うようにして、高橋さんも解答欄に数字を書き出していた。
「綺麗な字」
誰かのそんな声が聞こえたが、それどころじゃない。だけど、解答の桁数が多いだけに、総務の人は間違わないように、電卓の画面を真横に置いて書き写している。高橋さんはというと、ペンを持った瞬間、解答欄を見た気がしたが、その後は解答欄を見ずに電卓の画面の数字を見たまま数字を書き込んだ。
そして、ペンを置くと高橋さんが振り返った。しかし、総務の人もほぼ同時に振り返っている。
高橋さんは左手を。総務の人は右手を前方にあるボタンに手を掛けていた。
駄目!
見ていられない。
思わず目を瞑ってしまった途端、合図のボタンを押した音が二回、ほぼ同時に鳴った。
「矢島さん。終わったよ」
中原さんと会場内のどよめきで、結果が出たことがわかったが、どちらのボタンの前にあるデジタル表示が、数字の1を示しているのだろう。怖くて、でも早く見たくて、顔を覆っていた両手を静かに膝の上に置き、そっと目を開けた。
だが、中原さんの声が歓声の中にあって、何故か穏やか過ぎて、それが望んでいなかった結果のようで……。
「中原さん」
中原さんに問い掛けてはみたものの、膝の上に置いた両手の甲を見たまま顔を上げられない。
負けてしまったら……。高橋さんが、もし負けてしまっていたら。きっと、それは高橋さんにとって凄くプライドを傷つけられることで……。あれだけ仕事熱心で、自分の使命がわかっている人だから。何より、私が社会に出て初めて出逢った上司。いつも見守ってくれていて、まだ入社して一ヶ月も経っていない仮配属の私に、『矢島陽子という人間は、お前以外存在しないんだ。お前がいくら失敗しても、俺も中原も何回でも手を差し伸べる。突き放したりはしない。だから、もっと前を見ろ』とまで言ってくれた人。こんな大事なプレッシャーの掛かることが、後に控えていたというのに。もし負けてしまったら、経理のエースとして出たのに負けたりしたら、私は……。
「あっ」
中原さんの声と同時に、会場から歓声と悲鳴が同時に響き渡った。
「総務が答え書き……あっ、高橋さんも答え書き出した」
総務の人が、一番早く解答欄に数字を記入し始めている。その後を追うようにして、高橋さんも解答欄に数字を書き出していた。
「綺麗な字」
誰かのそんな声が聞こえたが、それどころじゃない。だけど、解答の桁数が多いだけに、総務の人は間違わないように、電卓の画面を真横に置いて書き写している。高橋さんはというと、ペンを持った瞬間、解答欄を見た気がしたが、その後は解答欄を見ずに電卓の画面の数字を見たまま数字を書き込んだ。
そして、ペンを置くと高橋さんが振り返った。しかし、総務の人もほぼ同時に振り返っている。
高橋さんは左手を。総務の人は右手を前方にあるボタンに手を掛けていた。
駄目!
見ていられない。
思わず目を瞑ってしまった途端、合図のボタンを押した音が二回、ほぼ同時に鳴った。
「矢島さん。終わったよ」
中原さんと会場内のどよめきで、結果が出たことがわかったが、どちらのボタンの前にあるデジタル表示が、数字の1を示しているのだろう。怖くて、でも早く見たくて、顔を覆っていた両手を静かに膝の上に置き、そっと目を開けた。
だが、中原さんの声が歓声の中にあって、何故か穏やか過ぎて、それが望んでいなかった結果のようで……。
「中原さん」
中原さんに問い掛けてはみたものの、膝の上に置いた両手の甲を見たまま顔を上げられない。
負けてしまったら……。高橋さんが、もし負けてしまっていたら。きっと、それは高橋さんにとって凄くプライドを傷つけられることで……。あれだけ仕事熱心で、自分の使命がわかっている人だから。何より、私が社会に出て初めて出逢った上司。いつも見守ってくれていて、まだ入社して一ヶ月も経っていない仮配属の私に、『矢島陽子という人間は、お前以外存在しないんだ。お前がいくら失敗しても、俺も中原も何回でも手を差し伸べる。突き放したりはしない。だから、もっと前を見ろ』とまで言ってくれた人。こんな大事なプレッシャーの掛かることが、後に控えていたというのに。もし負けてしまったら、経理のエースとして出たのに負けたりしたら、私は……。

