新そよ風に乗って ② 〜時の扉〜

ステージでは、各所属の代表者がアイマスクをしたままボードに背中を向けて立っている。
「では、ルールをご説明します。スタートの笛の合図で、後ろにあります紙面の数字の合計を一番下の解答欄の中に記入して頂きます。記入し終わった方は、前方にあります……これですね。このボタンを押した時点で終了の合図となります。結果、一番早く終了された方が優勝となるわけですが、万が一、解答が間違っていた場合は失格となります。その際は、二位になった方が優勝となりますので、ご了承下さい。尚、この対抗戦に勝った所属には、社長賞としまして、社長のポケットマネーから頂きました商品券五万円を差し上げます」
商品券五万円と聞いて、一斉に会場から歓声があがった。
高橋さん……。
みんなの期待を一気に背負っている。こんな大事なことが控えていたのに、それなのに私にちゃんと話をしてくれた。ああ、見えない配慮が全然出来ていない私……。
「高橋さん。自分の電卓持ってきたんだよ」
「えっ?」
「それが、どういう意味かわかる?」
高橋さんが、自分の電卓を持ってきた意味?
「すみません。わからないです」
「本気だってこと。負けられないじゃなくて、あの人は負けないんだ。これだけプレッシャー掛かってるんだから、誰だって緊張する。だけど、高橋さんはそのプレッシャーも見方に付けて、この場の雰囲気にも、そして自分にも勝つと思う」
「本当ですか?」
「嘘。今言ったことは、全部俺の願望」
「中原さん!」
「ほら、始まるよ」
「は、はい」
自分が出るんじゃないのに、凄く緊張して手に汗をかいている。もし、中原さんがさっき言っていたことが本当だったら、どんなにいいか……。
「ヨーイ!」
ピーッという、笛の合図でアイマスクを外した各所属の代表者が一斉に後ろのボードの方を向き、揃って背中を見せた。
高橋さん……。
周りの人達は、つい声が出てしまったのか声援を送っている。そんな余裕もない私は、両手を組んで祈るような気持ちで静かに高橋さんを見ると、やはり電卓は右手で持っていた。
「速い」
「だろう?」
思わず突いて出た言葉に、同じく静かに見ている中原さんが返事をしてくれた。
高橋さんは、まったく電卓の画面を見ていない。しかも、右手で持ちながら、人差し指、中指、薬指だけで電卓のキーを押している。そんなことって……出来るの?
「あれが、会計士の電卓の打ち方なんだよ」
「そうなんですか」
知らなかった……。