一瞬、険しい表情を浮かべていたので戸惑ってしまったが、何ともなくて良かった。
「それじゃ、次、行こうか」
「はい」
本当に社会科見学のようだ。普段、滅多に見られない場所を案内してもらえるなんて、夢にも思ってなかった。しかも、高橋さんに。
メインの空港ロビーを通り抜け、また違う鉄扉を解錠して入ると、そこは今までとは違って少し暗い部屋で何とも言えない臭いが漂っている。
「高橋さん。何だか……」
「ここは、空港で出たゴミを一手に引き受けてくれている場所だ」
「えっ……」
そう言った高橋さんは、ゴミ処理をしている人達のところに近づいて行った。
「こんにちは。少し、見学させて下さい」
「どうぞ、どうぞ」
「照明、暗くないですか?」
「そりゃ、暗いさ。でも経費節減とかで、社長さんが自ら、頭下げに来てくれたからには、文句も言えないよ」
社長が自ら、頭を下げに来た?どういうこと?
「そうですか。大変ですが、私達も早く元の照明に戻せるよう、努力致しますので、よろしくお願いします」
高橋さん……。
高橋さんが、ゴミ処理をしているおじさんに頭を下げている。それに倣って、慌てて一緒に頭を下げた。
こんな空気の悪い場所で、しかもエアコンも効いていない。次々とシャッターが開くと、トラックに積まれたゴミが運び込まれてくる。その1台、1台から降ろされたゴミを分別していく。それがこの人達の仕事……。
私はいったい、何が不満で、何に不安でいたのだろう。少なくとも、この人達からしたら環境の整った場所で働いている。採用されたことに、改めて感謝しなければいけないぐらい恵まれている。それは、たとえ私が居なくても成り立つ仕事なのかもしれない。しかし、今、ここに居る人達がいなければ、空港の運営にも支障をきたす。必ず、居て貰わなければいけない人達。失礼な言い方だが、人が嫌がる仕事を買かってくれているのだ。メインのロビーで搭乗手続きの仕事をしているのは、同じ会社の社員で脚光を浴びている。しかし、そんな脚光を浴びている人の裏で、こうした仕事をしている人達も居る。この人達にとっての仕事。これが職務なんだ。自分のためだけではない。たとえ、顔の見えない相手のために働くことも、仕事であるということ。
「怪我をしないようにして下さい。また、伺います」
「ありがとう」
「失礼します」