いったい、これから何が始まるんだろう。
「高橋さんは、経理の看板背負っているから、きっと本気出してくれると思うから」
エッ……。
「経理の看板背負ってるって、どういうことですか?」
本気出してくれるって?
「それでは、よろしいでしょうか? スタッフは、各ボードの前にそれぞれ代表者の方を誘導して下さい」
「毎年恒例の、電卓早打ち所属別対抗戦なんだ。各所属の電卓計算の速い人達が出て来て勝負するから一番盛り上がるんだよ」
「そうなんですか」
「経理は、今まで主計とか出納窓口の誰かが代表で出ていたんだけど、去年、総務に負けちゃって二位だったんだ。それで、今年は経理の面子に賭けても負けられないからと部長が言ってエース投入したんだけど、何でプロが出てくるって他の所属からクレームが出て、かなり揉めたんだ」
高橋さんがエース。それに対する、クレーム……。
「揉めてたら、サラッと高橋さんが言ったんだ。ハンディ付けて下さって結構です、とね」
嘘。
「そうしたら、とんでもないハンディになっちゃったんだ」
「とんでもないって?」
「他の所属の計算量より5行多くて、更にその5行の桁数も2桁多いらしい」
そんな……。
「それ、酷くないですか?」
「うん。酷いと思う。だけど、高橋さんは十分だって。皆さんが、それで納得して下さるのならいいと快諾したんだ」
「嘘でしょう?」
絶対、不利に決まってる。5行も多くて、更にその5行の桁数も2桁も多いだなんて。
「だから、俺も言ったんだ。絶対無理ですよって。総務の簿記一級の人が出場者の中にいるんだ。去年は、その人に経理は負けた。いくら高橋さんが公認会計士だからといって、簿記は同じく一級だから一緒なんだ。あとは、レベルの問題ってことで、速く正確に解答を出した方が勝ち」
高橋さん。高橋さんに、勝ち目はあるのだろうか?
「だけど、俺は信じてる」
「中原さん」
「あの人の仕事に対する姿勢も勿論、尊敬しているけど、決して駄目だと決めつけない。可能性が1%でもあれば、その可能性に賭けてみようと努力する、あの向上心とひたむきさは絶対、誰も真似できないと思う。
可能性が1%でもあれば……。
「きっと高橋さんは、やってくれる。だって、俺達経理の人間は、毎日電卓叩いてるんだよ? その中のエースが、負けるわけないだろう?」
「そ、そうですよね。絶対、高橋さんなら大丈夫ですよ。本当に電卓叩くのも速いですから」
仕事中の高橋さんを、思い浮かべていた。
いつも真剣な表情でパソコンの画面に向かっていて、電話が鳴ると必ず右手で取るのは左利きだから。左手でペンを持ちながら受話器を左の耳と肩で挟みながら、右手で電卓叩いたり、右手でマウスを動かしながらパソコン画面を見ながら話していたり……。右手で電卓? 高橋さん。そう言えば、右手でいつも電卓叩いている。
「皆さん。静かにして下さい」
司会進行の男性が、会場の盛り上がる声を抑えるようにと指示を出すと、一斉に静かになった。
「高橋さんは、経理の看板背負っているから、きっと本気出してくれると思うから」
エッ……。
「経理の看板背負ってるって、どういうことですか?」
本気出してくれるって?
「それでは、よろしいでしょうか? スタッフは、各ボードの前にそれぞれ代表者の方を誘導して下さい」
「毎年恒例の、電卓早打ち所属別対抗戦なんだ。各所属の電卓計算の速い人達が出て来て勝負するから一番盛り上がるんだよ」
「そうなんですか」
「経理は、今まで主計とか出納窓口の誰かが代表で出ていたんだけど、去年、総務に負けちゃって二位だったんだ。それで、今年は経理の面子に賭けても負けられないからと部長が言ってエース投入したんだけど、何でプロが出てくるって他の所属からクレームが出て、かなり揉めたんだ」
高橋さんがエース。それに対する、クレーム……。
「揉めてたら、サラッと高橋さんが言ったんだ。ハンディ付けて下さって結構です、とね」
嘘。
「そうしたら、とんでもないハンディになっちゃったんだ」
「とんでもないって?」
「他の所属の計算量より5行多くて、更にその5行の桁数も2桁多いらしい」
そんな……。
「それ、酷くないですか?」
「うん。酷いと思う。だけど、高橋さんは十分だって。皆さんが、それで納得して下さるのならいいと快諾したんだ」
「嘘でしょう?」
絶対、不利に決まってる。5行も多くて、更にその5行の桁数も2桁も多いだなんて。
「だから、俺も言ったんだ。絶対無理ですよって。総務の簿記一級の人が出場者の中にいるんだ。去年は、その人に経理は負けた。いくら高橋さんが公認会計士だからといって、簿記は同じく一級だから一緒なんだ。あとは、レベルの問題ってことで、速く正確に解答を出した方が勝ち」
高橋さん。高橋さんに、勝ち目はあるのだろうか?
「だけど、俺は信じてる」
「中原さん」
「あの人の仕事に対する姿勢も勿論、尊敬しているけど、決して駄目だと決めつけない。可能性が1%でもあれば、その可能性に賭けてみようと努力する、あの向上心とひたむきさは絶対、誰も真似できないと思う。
可能性が1%でもあれば……。
「きっと高橋さんは、やってくれる。だって、俺達経理の人間は、毎日電卓叩いてるんだよ? その中のエースが、負けるわけないだろう?」
「そ、そうですよね。絶対、高橋さんなら大丈夫ですよ。本当に電卓叩くのも速いですから」
仕事中の高橋さんを、思い浮かべていた。
いつも真剣な表情でパソコンの画面に向かっていて、電話が鳴ると必ず右手で取るのは左利きだから。左手でペンを持ちながら受話器を左の耳と肩で挟みながら、右手で電卓叩いたり、右手でマウスを動かしながらパソコン画面を見ながら話していたり……。右手で電卓? 高橋さん。そう言えば、右手でいつも電卓叩いている。
「皆さん。静かにして下さい」
司会進行の男性が、会場の盛り上がる声を抑えるようにと指示を出すと、一斉に静かになった。

