新そよ風に乗って ② 〜時の扉〜

「陽子。そんな悠長なこと言ってていいの?」
「えっ? 何が?」
「ハイブリッジだって、異動の対象者だよ?」
エッ……。
高橋さんも、異動の対象者? 
「で、でも高橋さんは公認会計士だし、経理以外になんて異動はないんじゃない?」
「一概に、そうとは言えないわよ。支店は沢山あるし、海外支社だって沢山あるもの。本社以外の経理に異動だって、有り得ない話じゃないわ」
「そんな……。海外支社なんて……」
高橋さんが海外に行ってしまうとか、考えられない。
でも……。
さっき、高橋さんが言ってくれた言葉が思い出された。
『お前がいくら失敗しても、俺も中原も何回でも手を差し伸べる。突き放したりはしない』
何回でも手を差し伸べると言ってくれたんだもの、異動なんて絶対ない。有り得ない。
そう自分に言い聞かせながらトイレに入り、出てくると神田さんが同期らしき人と話をしていたので、少し離れたところで待っていると、間もなくこちらに向かってきた。
「お待たせ。戻ろう」
「うん」
宴会がまだお開きになっていなかったので、一旦戻ることにした。
「宴会終わったら、反省会兼ねて同期で集まるらしいんだけど、陽子も来る?」
どうしよう……。
『失敗は、恐れるな』
高橋さんの言葉が蘇った。
見えない部分の配慮。それが出来なければ……。せっかく誘ってくれた神田さんに、申し訳ない。勇気を持って、矢島陽子。
「私も、行ってもいいの?」
「勿論よ。同期でしょう?」
「あ、ありがとう」
誘って貰えるなんて、思ってもみなかった。単純に、何か嬉しい。
席に戻ると、高橋さんが席に居なかったのでキョロキョロしていると、中原さんが高橋さんの席にスッと移動してきて、ステージを指さした。
「ちょうど、いいところに帰ってきたよ。これから始まるから」
「えっ? これから、何が始まるんで……高橋さん?」
ステージには見たことある人が何人か立っていて、その中の一人が高橋さんで、みんな手に電卓を持っていた。
すると、ステージに上がっている全員がアイマスクをさせられると、ホワイトボードが何台か出て来た。そのボードにスタッフの人達が大きな紙を置いて、マグネットで四隅を押さえている。