新そよ風に乗って ② 〜時の扉〜

「新入社員の皆さん。初々しい時間を、ありがとうございました」
その時、司会進行の人の声がして、新人の出し物が終わったことを告げた。
半分ぐらいしか、ちゃんと観られなかったが、始まった時の居たたまれない気持ちはもう何処かに行っていた。
「陽子。観てくれた?」
すると、そこへステージから降りてきた神田さんがやってきた。
「う、うん。観てた。手を振ってくれて、ありがとう」
「えっ? 私、陽子には振ってないよ?」
エッ……。
「ハイブリッジに振ったのよ」
耳元で神田さんが、そう囁いた。
「ええっ? 嘘……」
「嘘よ。ちょっと、トイレ行かない?」
「う、うん。あっ、そうだ。神田さん。ポンポンの振り方、凄く上手だった。一番上手かったと思うわよ?」
「Of course! だって私、大学でチアガールだったもん」
「ええっ。チアガールって、アメフトか何かの?」
「そう。アメフト部のチアガールよ」
どうりで、みんなより凄く上手いわけだ。
「そんなことは、どうでもいいから。行くわよ」
「あっ、うん」
半ば強引に引っ張られるようにして、神田さんに連れ出されてトイレに向かう途中、あちらこちらで席を離れた人達の輪がいくつも出来ていた。
みんな、出し物は観なかったのかな? 自分は出ていなかったのに、それでもやっぱりみんなに新人の出し物を観て貰えないというのは勝手な思いだが、何となく寂しい気持ちがした。
「皆さん、お忙しいこと」
嫌みっぽく、神田さんが呟いた。
「皆さん、何を話しているの?」
「くだらない話みたい」
くだらない話?
「さっき先輩に私も聞いたのよ。そしたら教えてくれたのよ。ほら、私達の本配属が5月15日に決まるじゃない?」
「うん」
そうだった。もうすぐ、本配属先が決まるんだ。
「その後、6月1日付で、今度は新人以外の異動があるんだって」
「そうなんだ」
「だから、みんな少しでも事前に情報を得たくて、あーだの、こーだの情報交換してるみたい。ゆっくり集まって、みんなで話せる機会もあまりないからね。だけど、確実な情報は何一つないらしいわ。もし、事前に異動の情報が漏れたなんてことになったら大変でしょ? もしかしたら、もう決まっているのかもしれないけれど、それを知っているのはごく一部だと思うし、最終的な決定は新人の本配属が決まってからって毎年言われてるらしいから」
先輩達の異動も、その後にあるんだ。だから、みんな今からそわそわしてるのかな。
「先輩達も、大変なのね」