そう言いながら、高橋さんが私の方を見た。
「ちょっ……。あの、中原さん。私なら大丈夫ですから」
「でも、その荷物でまた電車に乗るのは大変だよ。行くだけで疲れちゃうだろう?」
「そんなに多いのか?」
エッ……。
すると、高橋さんが私の席の方に向かって歩いてきた。
どうしよう。もう、中原さんったら、余計なこと言って……。この巨大な荷物がバレてしまう。高橋さんが見たら、何て言うだろう?
高橋さんが書類を持ったまま机の下をチラッと覗き込むと、すぐにまた歩き出していた。
「わかった、中原も一緒に乗っていけ。もう少し書類整理したら出るから、それまで矢島さんも残務整理してて」
「は、はい」
あれ? この巨大な荷物を見ても、高橋さんは何も言わなかった。
「良かったね、矢島さん」
ハッ!
「中原さん。何で高橋さんに、言うんですか。もう、焦ったじゃないですか」
「だって、その荷物で電車に乗るのは大変じゃない。だから、ちょっと高橋さんに頼んでみた」
中原さん……。
「ありがとうございます」
「さあ、高橋さんが終わるまで、俺達も書類の整理しちゃおう。このままにしておくと、ゴールデンウィーク明けまで放置されるわけだから」
あっ……。
「はい」
そうだった。
今日は木曜日。明日は国民の祝日でお休みだ。そして、五月二日は何故か調整休日とやらで、一月四日が本来、我が社の創立記念日らしいのだけれど、その日、半日出てその分、五月二日が丸一日休みになったらしい。社員にとって、得したのか、損したのかはわからないが。だから明日から実質五月五日まで休みで、六日に一日だけ出社すると、また週末で休みという本当にゴールデンウィークなのだった。
急ぎの書類はなかったが、連休明けに直ぐ処理出来るようにと思い、記入出来るものはすべて記入して書類を纏めながらチラッと高橋さんを見ると、パソコンの画面に向かって厳しい表情を浮かべていた。
きっと、私が想像しているよりも、もっと大変なんだろうな。だけど、それをおくびにも出さないところが高橋さんの凄いところであり、尊敬すべきところでもある。いつも高橋さんが、言っている台詞。
『自分だけが、忙しいわけじゃない。忙しいのは。みんな一緒だ』
でも、その中にあって新人の私が見た限りでも、高橋さんの忙しさは半端じゃないと思っている。だから、なるべく足を引っ張らないように……。
「お待たせ。矢島さん。行くぞ」
エッ……。
「は、はい」
「中原もいいか?」
「はい。ハハッ……。矢島さん。気合入ってるね」
「い、いえ、そんなことないです」
「フッ……」
ボーッとしていて、名前を呼ばれて驚いて立ち上がってしまった。
その姿を見て、高橋さんと中原さんに笑われてしまった。
「それじゃ、行こうか」
「はい」
高橋さんと中原さんの後ろから付いていく。