体調が優れなくて1週間と2日学校に行けなかった。いや、記憶が低下している自分に気がついた時、結城に会いたくないという気持ちが強かったのかもしれない。こスマホの通知に結城の名前が表示されていたのも、インターホンが鳴っていることにも気がついていたし、それが誰かもわかってた。気にかけてくれる嬉しさと、会いたいと思ってしまう自分の心に反し、病気だということを言うつもりは無い。なら、弱みを見せる訳にも頼る訳にもいかないというのは私のエゴなのかもしれない。時期が来て、自分で自分のことをできなくなったら、大切なものを忘れてしまったら静かに去ろうと思った。
儚いからこそ美しい。そんな女性に育って欲しいそう願ってつけてくれた名前。私には似合わないこの名前が大嫌い。父親の顔も名前も知らず唯一の家族だった母は私が3歳の時に家を出ていき施設に預けられ、その後の消息は何も知らない。人を愛することも愛されることも知らないからこそ、結城が真っ直ぐ私に伝えてくれる言葉全て戸惑ってしまう。
久しぶりに登校しようと玄関の扉を開けると結城が立っていた。
一瞬、誰だか分からなかった。あんなに会いたくて、あんなに恋しかったのに。
私の顔を見て嬉しそうにおはよう、さくら。
といつもの様に名前を呼ぶ。
その声で私は結城だということをおもいだす。
まだ大丈夫。まだ覚えてる。この声も、この顔も彼を思う気持ちも。
話の切り出し方も分からず長い沈黙が続くと、結城が突然立ち止まった。
少し前を歩いていた私は振り返りどうしたの?と声をかける。
俯いていた顔を上げ、見たことの無いくらい本気の目で私を見る。
会いたかった。心配してた。
その言葉にどう返していいのかも分からずに、結城から目を逸らす。
すると突然視界が暗くなった。何が起こったかはすぐに理解できた。結城の大きな腕の中で抱きしめられていた。心配かけないで。と耳元で囁く結城を抱きしめ返すこともできず、涙を必死にこらえ
ごめん。
と返すことしか出来なかった。
もうすぐ記憶もなくなり、長くも生きられない私にとってなんの意味もない数学の授業をただぼーっと聴きながら教室の窓から見える雲ひとつない青空を見つめていた。すると机の中でスマホがバイブ音を鳴らしていることに気が付き、教科担にバレないようにスマホを取りだす。結城から3件の通知だっただった。
『 今日も一緒に帰ろう』
『 てか数学わかんなすぎて頭いてー』
『 腹減らない??食堂でも一緒にど?』
私は結城の着信に1度だって返信したことないのに懲りずに何度も送ってくる。
もちろん今回も返信する訳にも行かず電源を切り机のなかにしまう。
授業が終わるチャイムがなるとすぐに結城が隣のクラスからやってくる。
LINE見てるなら、返事しろよ。
不満げそうな顔をして私を真っ直ぐ見つめる。
結城は照れることなくいつもまっすぐ私を見つめるから、逆に私が照れてしまう。
1度結城に向けた視線をまたスマホに向けると勢いよく私のスマホを奪い取った。
『 ちょっと返してよ。』
そう起こった口調で言い返すと
返信ないからここで聞く、返事くれるまで返さない。あ、返事の内容によっては返せないけど。
結城の求めている答えは一つだけ。スマホを早く返して欲しいから仕方なく、
『 わかった、放課後。私も結城に伝えたいことあるから。』
返事がないので結城にもう一度目を向けると
顔を真っ赤にしてこっち見んな。と私の頭を大きな手で掴んで自分から目を背けさせた。
そんな結城に思わず笑みをこぼしてしまう。
ずるいなやっぱり私は。結城の負担にはなりたくない、病気のことも知られたくない。でも気がついたら結城の隣は誰にも渡したくないと思ってしまっている。
だけどこんなふうに高校生らしい生活がこれからもっと苦しくなる、少し先の約束でさえ覚えていられなくなることが怖くて、なにより結城を忘れてしまうことが怖かった。だから今日、結城に伝えようと思う。
君の隣は居心地が良くて、私のものにしたいけどそれと同時に君の幸せを願うから。
もう会いたくないと。
6限目の鐘がなり教室を出て下駄箱に向かう。
部活動が始まり静かだった廊下も一気に騒がしくなった。階段を降りてると強く腕を引っ張られた。
『危ねーな、ちゃんと前見ろ。』
いつもそう私を気にかけてくれる。
ありがとうって思うと同時に申し訳なくなる。私には限られた時間しかないけど結城にはこれから10年、20年これからもっとこの世界で生きていかなきゃ行けない。そんな人の貴重な時間、奪っていいのかなって。
そんな事考えてたら
『 一緒に帰るって言ったろ?なんで先帰ろうとするんだよ。忘れたとは言わせないぜ』
、、ダメだごめん。思い出せない。
『ごめん。帰ろ』
どんだけ頭を回転させても思い出せないことがどんどん増えていく。
外は薄暗く街灯が眩しすぎるくらい光っている坂を結城の隣を並んで歩く。
『どうした?』
心配そうに顔を覗き込んでそう言うから私は焦って
『なにも。』
それしかいえなかった。結城は深くは聞かずに私の心を見透かしたようにして冷たくなった右手を握りしめた。
『寒いから。これくらい許せよ』
私の右手を握る結城の手は私の手の何倍も大きくて暖かい。
ホントなら離してって手を振り払ってあげなきゃ行けないのに、結城の隣にいられるのが幸せで出来なかった。好きって気持ち自分でもわかるけど認めたくなくて、認められなくて苦しくなった。1粒だけ流れた雫を結城は驚いた顔をして何も言わずに右手で拭った。触れられた目の下がじんわり暖かくなる。
少し歩いた先にバスケットゴール一つだけのシンプルな公園についた。
私は茶色のベンチに座り結城はバスケットボールで何度もドリブル、シュートを決めて私に見せる。
『伝えたいことって?』
ボールを持って私の隣に座った結城は私の言葉を待つように黙って見つめた。伝えたい内容は覚えていたけど、結城に話があると言うことを伝えたことは全く覚えていなかった。
言葉をつまらせながら口を開いた。
『もう、結城に会いたくない。
ごめん。楽しかった、ありがとう。』
私は結城の顔を見れなかった、悲しそうな顔をしているのが分かったから、自分の意思が変わってしまう前に帰ろうとする私を引き止めるように強く抱き締めた。
『なんでだよ。なんでだよ。』
わがままを言う子供みたいに、母と離れ離れになったあの日の私みたいに泣きじゃくった。
『ごめん。ごめん。』
私が泣いちゃいけない。涙をこぼさないようにしたけど耐えられなくてバレないように雫を垂らした。
『お前いないとダメなんだよ。
好きで好きで仕方ないんだよ!!
何があっても隣にいるって約束するからさ、、』
嬉しかった。こんな私でも必要とされてるんだって思えて、誰にも見せることがなかった私の弱さを結城に見せてしまった。
『ごめん。私病気なの』
強く抱きしめられた結城の手から力が抜けるように身体から私を引き離し涙でぐしゃぐしゃになった顔で私を見つめた。
好きになっちゃいけない。何度も何度も自分に言い聞かせできた。だけど何度も閉じたはずの心の扉が開いてしまった。
儚いからこそ美しい。そんな女性に育って欲しいそう願ってつけてくれた名前。私には似合わないこの名前が大嫌い。父親の顔も名前も知らず唯一の家族だった母は私が3歳の時に家を出ていき施設に預けられ、その後の消息は何も知らない。人を愛することも愛されることも知らないからこそ、結城が真っ直ぐ私に伝えてくれる言葉全て戸惑ってしまう。
久しぶりに登校しようと玄関の扉を開けると結城が立っていた。
一瞬、誰だか分からなかった。あんなに会いたくて、あんなに恋しかったのに。
私の顔を見て嬉しそうにおはよう、さくら。
といつもの様に名前を呼ぶ。
その声で私は結城だということをおもいだす。
まだ大丈夫。まだ覚えてる。この声も、この顔も彼を思う気持ちも。
話の切り出し方も分からず長い沈黙が続くと、結城が突然立ち止まった。
少し前を歩いていた私は振り返りどうしたの?と声をかける。
俯いていた顔を上げ、見たことの無いくらい本気の目で私を見る。
会いたかった。心配してた。
その言葉にどう返していいのかも分からずに、結城から目を逸らす。
すると突然視界が暗くなった。何が起こったかはすぐに理解できた。結城の大きな腕の中で抱きしめられていた。心配かけないで。と耳元で囁く結城を抱きしめ返すこともできず、涙を必死にこらえ
ごめん。
と返すことしか出来なかった。
もうすぐ記憶もなくなり、長くも生きられない私にとってなんの意味もない数学の授業をただぼーっと聴きながら教室の窓から見える雲ひとつない青空を見つめていた。すると机の中でスマホがバイブ音を鳴らしていることに気が付き、教科担にバレないようにスマホを取りだす。結城から3件の通知だっただった。
『 今日も一緒に帰ろう』
『 てか数学わかんなすぎて頭いてー』
『 腹減らない??食堂でも一緒にど?』
私は結城の着信に1度だって返信したことないのに懲りずに何度も送ってくる。
もちろん今回も返信する訳にも行かず電源を切り机のなかにしまう。
授業が終わるチャイムがなるとすぐに結城が隣のクラスからやってくる。
LINE見てるなら、返事しろよ。
不満げそうな顔をして私を真っ直ぐ見つめる。
結城は照れることなくいつもまっすぐ私を見つめるから、逆に私が照れてしまう。
1度結城に向けた視線をまたスマホに向けると勢いよく私のスマホを奪い取った。
『 ちょっと返してよ。』
そう起こった口調で言い返すと
返信ないからここで聞く、返事くれるまで返さない。あ、返事の内容によっては返せないけど。
結城の求めている答えは一つだけ。スマホを早く返して欲しいから仕方なく、
『 わかった、放課後。私も結城に伝えたいことあるから。』
返事がないので結城にもう一度目を向けると
顔を真っ赤にしてこっち見んな。と私の頭を大きな手で掴んで自分から目を背けさせた。
そんな結城に思わず笑みをこぼしてしまう。
ずるいなやっぱり私は。結城の負担にはなりたくない、病気のことも知られたくない。でも気がついたら結城の隣は誰にも渡したくないと思ってしまっている。
だけどこんなふうに高校生らしい生活がこれからもっと苦しくなる、少し先の約束でさえ覚えていられなくなることが怖くて、なにより結城を忘れてしまうことが怖かった。だから今日、結城に伝えようと思う。
君の隣は居心地が良くて、私のものにしたいけどそれと同時に君の幸せを願うから。
もう会いたくないと。
6限目の鐘がなり教室を出て下駄箱に向かう。
部活動が始まり静かだった廊下も一気に騒がしくなった。階段を降りてると強く腕を引っ張られた。
『危ねーな、ちゃんと前見ろ。』
いつもそう私を気にかけてくれる。
ありがとうって思うと同時に申し訳なくなる。私には限られた時間しかないけど結城にはこれから10年、20年これからもっとこの世界で生きていかなきゃ行けない。そんな人の貴重な時間、奪っていいのかなって。
そんな事考えてたら
『 一緒に帰るって言ったろ?なんで先帰ろうとするんだよ。忘れたとは言わせないぜ』
、、ダメだごめん。思い出せない。
『ごめん。帰ろ』
どんだけ頭を回転させても思い出せないことがどんどん増えていく。
外は薄暗く街灯が眩しすぎるくらい光っている坂を結城の隣を並んで歩く。
『どうした?』
心配そうに顔を覗き込んでそう言うから私は焦って
『なにも。』
それしかいえなかった。結城は深くは聞かずに私の心を見透かしたようにして冷たくなった右手を握りしめた。
『寒いから。これくらい許せよ』
私の右手を握る結城の手は私の手の何倍も大きくて暖かい。
ホントなら離してって手を振り払ってあげなきゃ行けないのに、結城の隣にいられるのが幸せで出来なかった。好きって気持ち自分でもわかるけど認めたくなくて、認められなくて苦しくなった。1粒だけ流れた雫を結城は驚いた顔をして何も言わずに右手で拭った。触れられた目の下がじんわり暖かくなる。
少し歩いた先にバスケットゴール一つだけのシンプルな公園についた。
私は茶色のベンチに座り結城はバスケットボールで何度もドリブル、シュートを決めて私に見せる。
『伝えたいことって?』
ボールを持って私の隣に座った結城は私の言葉を待つように黙って見つめた。伝えたい内容は覚えていたけど、結城に話があると言うことを伝えたことは全く覚えていなかった。
言葉をつまらせながら口を開いた。
『もう、結城に会いたくない。
ごめん。楽しかった、ありがとう。』
私は結城の顔を見れなかった、悲しそうな顔をしているのが分かったから、自分の意思が変わってしまう前に帰ろうとする私を引き止めるように強く抱き締めた。
『なんでだよ。なんでだよ。』
わがままを言う子供みたいに、母と離れ離れになったあの日の私みたいに泣きじゃくった。
『ごめん。ごめん。』
私が泣いちゃいけない。涙をこぼさないようにしたけど耐えられなくてバレないように雫を垂らした。
『お前いないとダメなんだよ。
好きで好きで仕方ないんだよ!!
何があっても隣にいるって約束するからさ、、』
嬉しかった。こんな私でも必要とされてるんだって思えて、誰にも見せることがなかった私の弱さを結城に見せてしまった。
『ごめん。私病気なの』
強く抱きしめられた結城の手から力が抜けるように身体から私を引き離し涙でぐしゃぐしゃになった顔で私を見つめた。
好きになっちゃいけない。何度も何度も自分に言い聞かせできた。だけど何度も閉じたはずの心の扉が開いてしまった。
